2025年大阪万博こそ「昭和100年」を象徴するイベント……終わらない昭和を古市憲寿が考える
ゾンビのように昭和は蘇る
果たして「昭和」は終わるのだろうか。それともゾンビのように何度も蘇(るのだろうか。 本書では「昭和100年」を記念して、いくつかの角度でこの問題を考えてみたい。一言でいえば、「昭和」の夢の跡を振り返る一冊になるだろう。 1章のテーマは万博だ。1970年の大阪万博以降も、世界各地で万博が開催されてきた。その中でも近年の大規模万博の開催跡地を訪れながら、2025年の大阪万博成功の可否を考えてみたい。 2章では、宇宙をテーマに科学が見せた夢の歴史を振り返る。昭和後期において、宇宙は輝かしい未来の象徴であった。日本政府が独自で有人ロケットの打ち上げを目指していた時代があったほどだ。だが今や日本の宇宙開発は軍事と急速に接近しつつある。 3章は、1964年と2021年に開催された東京オリンピックがテーマである。一般的に輝かしい出来事として記憶される1964年オリンピックだが、実際のところ負の遺産も多いと言わざるを得ない。 4章は「昭和」をより長いスパンで捉えてみたい。本書では「昭和」を日本がナンバーワンを目指した時代と定義したが、本来それは近代という時代の特性でもある。近代が産声を上げた欧州各地を巡りながら、その夢の跡を考察していく。 5章では、2021年の万博開催地でもあった「未来都市」ドバイを例にしながら、世界的に「昭和」が復活しつつある状況を見ていきたい。冷戦終結後、人類が夢見たグローバルな世界秩序は、急速に色褪(せつつある。その上で、昭和という亡霊がいつまでこの社会を支配するのかについて考えてみた。 このように本来は5章構成の本なのだが、幕間((まくあい)として3章と4章の間に「戦後100年」と題したシミュレーションを配置した。昭和100年のさらに先、戦後100年の視点で日本社会を考えた未来予測である。2045(昭120)年から振り返ると、この国はどのように見えるのだろうか。 各章は独立しているので、どの章から読んでも構わない。時間のない人は5章だけを読んでも本書の主張は伝わると思う。 西暦には元号を昭和で併記している。また人物にも生年を元号で付記した。最近はあまり見かけなくなったが「昭60」は昭和60年という意味である。 昭和以降の平成・令和に関しては、昭和が続いていたらという前提で数字を計算している。昭和以前に関しては、昭和元年を起点としてその何年前かを記した。 それでは、昭和100年を巡る旅に出かけよう。
古市 憲寿(社会学者)