2025年大阪万博こそ「昭和100年」を象徴するイベント……終わらない昭和を古市憲寿が考える
日本がナンバーワンを目指した時代
昭和とは何か。実際に60年以上続いた時代だから、さまざまな角度から語ることが可能だろう。 この本では、昭和を日本が工業の力で覇権を取ろうと画策した時代として考えてみたい。日本が「ナンバーワン」を目指した時代と言い換えることもできる。 昭和初期の日本は、東アジアに閉じ籠もることなく、アフリカから中近東、中南米まで世界市場の開拓を目指した(注3)。「東亜」だけでの自給自足は難しく、特にアメリカとの通商・貿易関係は不可欠だったのだ。 無謀にも日本はそのアメリカに戦争を挑み、負ける。だが1945(昭20)年以降は、敗戦を奇貨として目覚ましい経済成長を達成した(注4)。戦争には負けたが経済成長の勝者にはなったのだ。1968(昭43)年にはGDPベースで世界2位の工業大国となる。 1973(昭48)年と1978(昭53)年にはオイルショックを経験し、一時的には経済が停滞するものの、日本経済は持ちこたえた。それどころか国際的にも日本の存在感は高まっていく。 1979(昭54)年にアメリカで出版された本では「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされ(注5)、昭和末期には未曽有のバブル景気を経験した。不動産価格は高騰し、東京都の山手線内側の土地価格だけで、アメリカ全土が買えると騒がれたりもした。 このように昭和は、軍事的に叶えられなかった夢を、経済的に実現させた時代とも言えそうだ。その後に訪れる平成とは対照的である。 ※1 2024年10月の衆議院議員選挙で女性議員の割合は15.7%まで上昇した。参議院は26.7%。だがイギリスや北欧諸国では4割を超えている。 ※2 古市憲寿『誰も戦争を教えられない』講談社+文庫、2015年。 ※3 井上寿一『戦前日本の「グローバリズム 一九三〇年代の教訓」』新潮選書、2011年。 ※4 敗戦によって経済後進国になったため他国の経済政策を真似しやすかった上に、戦勝国アメリカの対日政策が、賠償よりも経済発展優先だったなど、いくつもの幸運が重なった。 ※5 エズラ・ヴォーゲル『ジャパン アズ ナンバーワン アメリカへの教訓』TBSブリタニカ、1979年。