日本発の「BOUSAI(防災)」テックで世界一を目指すSpectee フィリピン政府が採用
日本の防災テックスタートアップであるSpecteeが海外進出を発表した。まずは、日本と同様の災害大国であるフィリピンに事業体制を築いており、フィリピン政府および地方自治体における導入も決定している。 【もっと写真を見る】
防災テックスタートアップであるSpecteeは、2024年12月2日、海外進出を開始することを発表した。まずは、日本と同様の災害大国であるフィリピンに事業体制を築き、すでにフィリピン政府および地方自治体における導入も決定している。 Specteeがグローバルで展開するのは、AIを活用したリアルタイム防災・危機管理サービス「Spectee Pro」。日本の災害対策で実績を重ねた日本発の“防災(BOSAI)”ソリューションを武器に、2030年には災害対策市場で世界一位を目指すという。 Specteeの代表取締役 CEOである村上建治郎氏は、「災害大国日本だからこそ、防災における技術やノウハウが溜まった。それを世界に輸出していく」と意気込みを見せた。 東日本大震災に始まった危機情報の可視化・予測ソリューションは、契約数1100件を突破 Specteeが創業したのは2011年。同年発生した東日本大震災において「いかに被災地の情報を集めるか」というところから事業が始まった。当時はまだスマホの普及率は低かったが、SNSを通じて被災地の情報を集約する仕組みを構築。これが現在の防災・危機管理サービスの礎となった。 2014年には災害情報の個人向けアプリをリリースし、2016年にはPCに対応した法人版を展開。そして、2020年にはSNS以外のデータソースを取り入れ、地図情報とも連携させ、災害を中心としたあらゆる危機に対策できる「Spectee Pro」を提供開始した。 Spectee Proで収集するデータソースは、SNSをはじめ、気象データ、道路・河川のライブカメラ、衛星データ、自動車走行データなど多岐にわたる。これらのデータを、AIがリアルタイム解析して様々な“危機”を可視化。必要な情報はリアルタイムに通知され、水害の影響範囲や物流リスクなどの被害をAIで予測する機能も提供する。 危機情報を集める仕組みとしては、キーワード抽出だけではなく、AIによる自動判別も活用する。SNSにあがった動画や画像などから、火災や土砂崩れ、冠水といった被害をAIが見つけて、他のデータソースとあわせて随時地図上に反映していく。 また、SNSをソースのひとつとして採用しているため、デマ・フェイクに対する監視にも力を入れる。まず、1次チェックとして情報の真偽をAIが解析。加えて、AIでは見抜けないデマに対応すべく、専門チームを設けて、24時間365日の有人チェック体制も築いている。こうしたオペレーションにより、正確性が担保された危機情報がリアルタイムで届けられる。 Spectee Proの契約数は、現在、1100件を超えている。当初は報道機関での採用が多かったが、機能の拡充につれて自治体や民間企業の採用が中心になってきている。公共機関では、神戸市や福井県、大分県、豊田市などが導入しており、石川県では、能登半島地震の被害状況を同ソリューションで把握している。 民間企業では、製造業・物流や小売・不動産、建築・インフラ事業者、金融・保険の領域などで採用が進み、なかでもイオンでは、全国の店舗周辺や配送ルートにおける被害情報の可視化に活用している。製造業・物流においては、サプライチェーンのリスク管理に最適化した「Spectee SCR」もリリースしたばかりだ。 アジアにて“レジリエンスのリープフロッグ”を起こす このように、Spectee Proの導入が順調なのは、災害大国である日本において、防災の技術やノウハウを積み重ねてきたからだ。一方、世界を目に向けても、自然災害や地政学リスクが増大しており、「レジリエンス」の需要は拡大している。 この日本発の「BOSAI(防災)」ソリューションを、世界にも届けるべく、まずはフィリピンにおける事業の立ち上げを開始した。 フィリピンを選んだ理由として、Specteeの取締役COOである根来諭氏は、「(フィリピンは)日本と同じく災害大国。台風がよく上陸し、火山や地震の災害も発生する」ためだと説明する。SNSの利用率も高く、危機の情報ソースに事欠かないことも決め手になっている。 事業の立ち上げにおいては、JICA(国際協力機構)の「中小企業・SDGsビジネス支援事業」の採択を受け活動を進めてきた。これは、従来のODA(政府開発援助)ではなく、JICAが企業をバックアップして、開発途上国の社会課題を解決するビジネスの創出を推進するスキームだ。 ビジネスの案件化調査から、ビジネスモデルの検証や事業計画案の策定において、JICAの支援を受けている。「特に防災(のビジネス)においては公共セクターを開拓しなければならない。JICAの信頼や実績によって機会を得ることができた」と根来氏。 具体的には、2023年からフィージビリティスタディという形で、中央省庁や地方自治体などフィリピン中を周り、Spectee Proの価値を訴求した。その結果、フィリピンのデジタル庁にあたるDICTとパートナーシップを結び、中央省庁および地方自治体に対して、80ライセンスが導入されることが決定した。 導入されるのは、危機情報の可視化範囲を世界にまで拡張したSpectee Proのグローバル版だ。SNS情報のデマ・フェイクを監視する専門チームも現地で構築して、セミナーの実施やフィードバックを受けて機能のローカライズを行いながら、導入に向けて準備を進めている。 同時に、現地の販売代理店とも連携して、民間市場も開拓していき、財閥企業や報道機関を中心にアプローチ予定だ。 フィリピンの事業立ち上げ後は、タイやベトナムへの進出を検討しており、2028年にはASEANや東アジア全域でのサービス展開を目指す。その中で実現したいのは、防災の世界における「リープフロッグ」だと根来氏。例えば、ケニアで固定電話を飛ばして携帯電話が普及したように、旧世代技術の普及段階を経ることなく一気に最新技術に到達する現象を指す。 日本ではオンプレミスの防災情報システムの時代を経たが、その土壌がないアジア各国では、いきなり低コストで導入ハードルが低いクラウドの防災ソリューションを展開できる。そのために、他の日本政府のサポートの活用や他社との協働も検討していく。 代表取締役 CEOである村上氏は、「世界的に災害が増えている一方で、防災ソリューションの領域では、世界を見渡してもあまりプレイヤーがいない。アジアの後は、欧米諸国やアフリカ、南米など各国に展開していき、2030年以降にはトップシェアを狙いたい」と抱負を語った。 文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp