日本のSNSでブレイクの「格付けミーム」は中国発 中国のコンテンツが日本で二次創作に使われる例が生まれる
擬人化された動物が地下鉄内で暴れて、後からやってきた動物が圧倒する、通称「格付けミーム」の動画がSNSで話題になっている。この元ネタを作ったのは、中国・深セン生まれのクリエイター「星有野」氏だ。 【もっと写真を見る】
ニワトリがライオンをボコる「格付けミーム」 元は中国の人気クリエイターが作ったショートムービー 12月に入り、XをはじめとしたSNSで、擬人化された動物が地下鉄内で暴れて、後からやってきた動物が圧倒する、通称「格付けミーム」の動画が話題になった。このショートアニメが二次使用されたのはこれが初めてではなく、2021年にも「APEX格付け」というタイトルで話題になっている。 この元ネタを作ったのは、1999年中国・深セン生まれのクリエイターのハンドルネーム「星有野」氏。氏の作品は格付けミームの元になった作品「小老弟,哥們混街溜子時候イ尓還没出生〓(邦訳は弟よ、兄が道を走り回っていた頃、あなたはまだ生まれていませんでした。〓は口へんに尼)」を含め、いずれも動物を擬人化した作品だ。 2024年12月15日の時点で微博では156万人,ビリビリでは571万8000人、抖音(中国向けのTikTok)は1286万4000人ものフォロワー数を抱える。中国のショートアニメでは女性向けの恋愛モノが人気だが、星有野氏はその中でも男性を中心にファンを集める異色の存在だ(https://www.bilibili.com/video/BV1Rv411y7eW/)。 星有野氏は日本での格付けミームの人気に気づいている。微博(Weibo)で、星有野氏は二次作品である格付けミームが盛り上がっていることを知り、 「このミームのせいで星有野が海外で有名になるとは思っていなかったし、新しいコンセプトを知りました。ハハハ、海外の文化と想像力は小さくないですね。あと、hoshi arinoという名前は合ってる? 機械翻訳なんでよくわからないです、ハハハ」 と優しいコメントをしていた。 動物擬人化のムービーはほかにも作られている 種ごとにキャラクター設定がある 格付けミームの動画も含め、一連の動画で出てくるキャラクターは、親切でときどき喜んで他人を助ける「ライオン」、ライオンと揉めがちでユーモアがある「イヌ」、正義の行動をとる「ニワトリ」、よくも悪くも平凡な「ウサギ」、かわいい「ネコ」、穏やかでフレンドリーな「ヒツジ」などからなる。 特にニワトリが勇敢で英雄的な行動をするということで、人気があるようだ。星有野氏のYouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/@%E6%98%9F%E6%9C%89%E9%87%8E)もあり、動画を見るときは、このキャラクター設定を念頭に置いておくといいだろう。 一連の動画だが、中国国内での評価はすこぶる高く、ショートアニメに詳しい多くの人が氏の作品を賞賛しているという。作品は告白してフラれたり、暴力に訴えたりと、人生でありそうなさまざまな出来事を擬人化した動物を使って表現した、日常あるある系のアニメだ。動物には基本的にはセリフはないものの、適切な効果音と絶妙なしぐさや表情で表現することで、多くの中国人視聴者は登場するどれかの動物に自分を重ね合わせて共感しているという。 ただし、デビュー作品だけは動物作品ではない。というのも新型コロナウイルスが最初に拡大した中国の武漢に氏はいたので、ロックダウンされた中での医療現場の奮闘への思いを馳せて作ったショートアニメがデビュー作なのだ。 その後、このショートアニメが拡散し、深センのMCN(インフルエンサーの事務所)に声をかけられインターンとなり、そこで動物のドタバタ劇のショートアニメを作り始め、一気に人気となってフォロワーを増やした。企業に所属しているということは、そこ経由の仕事としてなんらか描いてくれることも可能だろう。 中国ではIP活用がよく言われており、たとえば中国発の原神のグッズが発売されたり、やはり中国発のPOPMARTのコレクショントイが人気になっている。同じように星有野氏のグッズも売られていて、ECプラットフォームの淘宝などで、キャラクターをモチーフとしたぬいぐるみやTシャツやマグネットが売られている。 表現に制約があると思われている中国のコンテンツだが 日常のあるある系なら日本でも受け入れられる余地があるか これまで日本のコンテンツが中国で勝手に再利用されることはよくあったし、ちいかわやくまモン、ポプテピピックがネット上で勝手に二次創作に使われることはよくあった。しかし、ついに中国のコンテンツの二次創作が日本のメジャープラットフォームで拡散したわけだ。 なにかと「中国は表現の自由がない」と言われがちだが、それでも制約の中で描かれる中国の日常のあるあるストーリーの描写であれば、中国だけでなく日本でも共感を得られることが証明された。今やさまざまな中国アニメが日本で視聴できるようになり、日本と中国がだんだんとアニメでも対等な関係になっていくように感じている。ジャンルは違うが、ゲームでもAAAタイトル「黒神話:悟空」を皮切りに多数のゲームがSteamやPS5向けにリリースされ、相互にゲームを遊ぶ対等な関係になっていく。 中国人が日本のコンテンツを見てファンとなり、秋葉原や日本橋まで出向いてキャラクターグッズを買う人も多くいるし、中国国内で増えているグッズショップでも日本のキャラクターグッズは人気という。ならばオフィシャルYouTubeコンテンツを見て、グッズをタオバオで買うなど、なにかの形でお礼するという、日中の趣味趣向が似たもの同士が前向きな投げ銭をする関係になるのもいいと思うのだ。 文● 山谷剛史 編集● ASCII