「1冊でも倒れないブックスタンド」が爆売れ 固定観念覆す商品開発
本立ての本が倒れてしまう──このストレスを解消してくれるのが「1冊でも倒れないブックスタンド」。ブックスタンドという成熟した市場で、新たな価値を創出。数々の文具アワードを受賞したこの商品の開発は、コストとの戦いでもあった。 【関連画像】書籍を抜くところ。抜いたところのストッパー(赤で囲ったところ)が下がり、隣の本を支えるので倒れない。後で書籍を戻す位置も分かる(画像/リヒトラブ) 何度も芯が折れてイライラさせられるシャープペンシル、消しかすが散らばって片付けが面倒な消しゴム……。文具を使っていて、「致命的な欠点ではないけれど、いつもストレスのもとになる」という現象がある。 それらのストレスを解消し、ユーザーの気分を上げてくれる──そんな文具の好例が、リヒトラブの「1冊でも倒れないブックスタンド」だろう。 2022年10月に発売したところ、あれよあれよという間に売り上げが伸長。発売から約1年で計画の7倍以上の4万4800台を売り上げた。当初はシリーズ化の予定はなかったが、ユーザーの要望を受ける形でラインアップを拡充。今では5サイズ、2色を展開。24年6月には売り上げ台数がシリーズ全体で10万台を突破した。 ●A4版の雑誌も倒れない 本立て(ブックスタンド)に本や雑誌を収納するときのストレスの一つは、「せっかく立てて置いたのに倒れてしまう」ことだろう。ところが、1冊でも倒れないブックスタンドはそのネーミングの通り、本や雑誌を立てかけたときに、倒れないのだ。 その秘密は、ブックスタンドの端から端までずらっと並んだ「ストッパー」にある。 ストッパーは三角形のパーツで、軽い力で上下にパタパタと動く。普段は斜め手前にせり出す形で位置しているが、本をブックスタンドの手前から差し込んでいくと、その本の厚み分だけストッパーが奥に持ち上がる。両サイドのストッパーは手前にせり出した位置のまま保持されているので、これが支えとなって、本が横に倒れるのを防いでくれる。 逆に、複数冊並べていた状態から1冊だけ抜き取ったときも同様に、倒れない。抜いたところのストッパーが自動で下がって手前にせり出し、隣の本を支えてくれるからだ(関連画像)。 1冊でも倒れないブックスタンドを実際に使ってみると、普通ならすぐに倒れてしまうようなA4版の雑誌も、しっかりと保持してくれた。ストッパーは上下2段あるので、A4版の雑誌と小さなサイズの文庫本やDVDなどが混在しても問題はない。本棚の本が倒れてしまうという、今までどうしても避けられなかった小さなストレスが、これで解消する。 ブックスタンドは機能が単純なだけに、革新の余地はない──そんな固定観念を覆すようなこの商品は、どのように生まれたのか。 ●廃番の自社商品がヒントに 開発者はリヒトラブDESIGN PLACE主任の岩上優樹氏。中学生時代から文具が大好きな少年だったという。 街の文具店を巡り、気になった文具は分解して構造を研究するほどだった。大学でプロダクトデザインを学び、リヒトラブに入社。主に構造や機構に関する設計・開発を手掛けてきた。 1冊でも倒れないブックスタンド開発のきっかけは、岩上氏自身の子供が絵本の収納に困っていたことだった。ボックスに絵本を入れて片付けるのだが、ボックスの中で絵本が倒れ、ぐちゃぐちゃに……。これをなんとかしてあげたいと思ったのだという。 リヒトラブの開発部門であるDESIGN PLACEでは、月に数回、新商品のアイデア出しをする。その場に、本が倒れないブックスタンドのアイデアを出した岩上氏。その脳裏にあったのは、ピアノの鍵盤の動きだった。鍵盤をたたくと生じる段差や溝。「この動きが以前から気になっていて、商品開発に使えないかなと、昔からなんとなく思っていた」(岩上氏) 同部署には工作室があり、様々な工作機械を使って試作ができる。岩上氏はここで試作を繰り返した。