「1冊でも倒れないブックスタンド」が爆売れ 固定観念覆す商品開発
その際、ヒントになったのが、30年以上前の自社製品で、既に廃番となった「コンピューターバインダーワゴン」。バインダーを抜き取っても隣のバインダーが倒れないストッパー構造を取り入れたものだった。 アイデア出しの場は、メンバーたちの蓄積した知識やノウハウを出し合う場でもある。先輩社員から、「そういえば昔、こういう商品があったよ」と教えてもらい、「なんとなく新商品の形が見えてきた」(岩上氏)。 ここまでで、最初のアイデア出しから約半年。新型コロナウイルス禍の影響で、家で本を読んだりゲームやDVDを楽しんだりする人が増えた時期だ。ユーザーは幅広く存在すると予想でき、岩上氏は「消費者に受け入れられたら、意外に売れるんじゃないかと思っていた」と言う。 だが、商品化まではまだハードルがあった。 岩上氏の上司、DESIGN PLACEチーフの丸川法文氏によれば、「アイデア出しから実際に商品化までたどり着くのは、ほんの数%」。そのプロセスで大きなハードルになるのが、コストだ。 ●立ちはだかる“コストの壁” 「ある程度の目標価格というものがあって、それに合わせるために素材、構造をどうするか。安くしたいが、耐久性を落としてもいけない。この商品も、当初の構造案を1度、変更している」(岩上氏) 開発中の新商品についてDESIGN PLACEと営業部門が情報共有する場では、「今まで世の中になかった商品だから、消費者に受け入れられるかどうか分からない。だから、できるだけ価格を安くしてほしい」という営業部門からの要望があったという。 そこで設計をやり直して、部品点数を削減。素材も検討し直して、当初の想定価格の3分の2程度まで引き下げることに成功。カラーバリエーションもあえて抑えて、当初はアイボリーのみで商品化した。 また、小売店が「この商品は売れる」と思ってくれなければ取扱店舗は増えない。この壁をどう乗り越えるか。 岩上氏は商品を発送する段ボール箱の表面全体を使って、商品の特徴や使い方をイラストと文字で「これでもか」というくらいに説明することにした。6台発注してくれたら1台サービス、陳列用の文庫本サンプルとPOPも提供するなど、商品の特徴を理解してもらうための工夫を惜しまなかった。 「本当はパッケージにもっといろいろ工夫したかったが、コストの面でできなかった」と打ち明ける岩上氏。だが、こうして発売した1冊でも倒れないブックスタンドは、文具界の著名インフルエンサーとして知られる他故壁氏(たこかべうじ)氏に激賞され、人気に火がついた。23年の「日本文具大賞」で機能部門優秀賞、「文房具総選挙2023」で大賞など、複数のアワードを受賞。 これを追い風に、サイズバリエーションを拡大してきたが、その開発プロセスは常にコストとの戦いでもあったようだ。 「大きいサイズが欲しい」という声に対応してA4版を開発したときも、既存品のストッパーを使ってサイズだけ大きくすると、本が倒れてしまう。ストッパーそのものを大きくする手もあったが、新しく金型を起こすとコストがかかる。できるだけコストをかけずに、必要な機能を実現するために取った策が、既存のストッパーを上下2段に配置する2重ストッパーだったというわけだ。 1冊でも倒れないブックスタンドは、成熟した市場でもイノベーションは起こせるという見本のような商品といえるだろう。海外のバイヤーからも引き合いがあり、現在は米国にも出荷している。
花澤 裕二