『ミシュランガイド』掲載3店、手掛ける店すべてに行列ができる異端の職人のラーメン哲学
プロデュースしたラーメン店が、次々と『ミシュランガイド』に掲載される職人がいる。彼の名は水原裕満(39)。『らぁめん小池』は7年連続、『中華蕎麦にし乃』は5年連続、『キング製麺』は3年連続で掲載を果たした。水原のラーメンはなぜそれほどまでに評価されるのか。そして独自の戦略とは何か──インタビューを通じ、水原のラーメン哲学を明らかにする。(敬称略)
8つのブランドが次々と人気店に
全国有数のラーメン激戦区・東京で、繁盛店を作ることは決して容易なことではない。しかし水原裕満が手掛けた店はいつも行列が絶えない。上北沢『らぁめん小池』に始まり、本郷三丁目『中華蕎麦にし乃』、王子『キング製麺』、小川町『つけめん金龍』、巣鴨『こいけのいえけい』、御徒町『あいだや』、本郷三丁目『本郷苑』、新宿『伊之瀬』と、10年あまりで8つのブランドを手掛けてきた。 一般的な繁盛店の多くは有名店で修行した弟子が独立した店や大企業の資本が入った店であるなか、水原はラーメン作りの知識もろくにない状態で、2013年に後の『らぁめん小池』の前身となる『つけめん小池』をオープンした。ゼロからのスタートで苦戦する日々だったと水原は振り返る。 「元々、バンドマンや靴職人を目指していたんですが、どれもうまくいかなかった。その後、居酒屋で働いて、28歳のときにラーメン店で独立したものの、オープンから3カ月たっても客足は伸びませんでした」 水原が最初に手掛けたのは、当時の流行に乗っただけの魚介豚骨系のつけ麺だった。そこにこだわりはなく、客足が少ないのも当然だった。このままだと店はつぶれる……。崖っぷちに立たされた水原は、恥を忍んで東京有数の行列店に頭を下げて回った。店主たちからカエシ(たれ)のレシピやスープの作り方をイチから教えてもらい、これまで全て独学でやってきたラーメン作りを見直した。 改良を重ねること半年、少しずつ店の前に行列ができ始めた。しかし、お客が増えたことで新たな問題も生まれる。 「つけ麺はラーメンに比べると麺をゆでるのに時間がかかるため、オペレーションが追いつかないんです。それで悩んだ末に、つけ麺からラーメンにシフトすることを決意しました」 オープンから9カ月、屋号を『らぁめん小池』に改め、煮干し系のラーメンで新たに勝負をかける。それをきっかけにさらに売り上げを伸ばし、元々の常連客にもさらに来店してもらえるようになった。