『ペパーミントソーダ』1963年のアルバム、13歳の少女への手紙
取り残される感覚
姉妹の両親は別居している。『ペパーミントソーダ』では姉妹の生きている世界の違いだけでなく、父親と母親の世界の違いが描かれている。これはディアーヌ・キュリスの初期3作品に共通するテーマだ。厳格な母親の姿と違い、父親の影はとても薄い。父親は姉妹の期待に応えられない。レストランで食事を共にするシーンでは、父親のジョークが上滑りしていく。やさしそうな父親であり、姉妹にも愛されているが、いざ二人の前で父親であることを示そうとするたびに、彼の思惑はことごとく失敗しているように見える。父親は取り残されている。 フレデリックは政治に目覚め、学内で政治活動を始める。少女たちの生きている世界では、政治の話は性の話と同じくらいタブーとされている。学校側と母親はフレデリックの活動をいっさい認めようとしない。フレデリックは友人の父親に惹かれる。初めて自分と対等な立場で意見をくれる大人の男性。フレデリックは友人の父親の姿に、模範となるべき父親の“モデル”を発見したのかもしれない。しかしフレデリックもまた自分の生きている世界から取り残されている。 成績優秀で母親に愛されているフレデリック。アンヌは早く姉のようになりたいと願っている。アンヌにとって姉は身近にいる最大のライバルだが、二人の間には他の人とは決して築けないような親密さがある。フレデリックは姉としての権威を行使するときもあるが、アンヌを見放すようなことはない。姉妹の連帯。『Cocktail Molotov』には、家出する姉に妹が黙って自分の貯金を差し出すシーンがある。 パーティー会場の片隅でダンスに交われず、所在なさげにしているアンヌ。ベッドで母親に甘えるフレデリックを見ているアンヌ。アンヌはいつも取り残されている。生理がきたことを母親に告げた瞬間に派手に平手打ちされるシーンは象徴的だ。アンヌは涙を流す。生理のお祝いのために両頬をピンクの“バラ”のように染めるのが一家の伝統だと、娘に説明する母親。しかしビンタによる痛みは、肉体的な痛み以上にアンヌの心を深く傷つけている。この瞬間、アンヌだけでなく母親も取り残されている。 本作では登場人物の誰もが感情的に孤立している。ディアーヌ・キュリスは、少女たちの感じた喜びが否定される瞬間を積み重ねていく。『ペパーミントソーダ』において、笑いと反抗と悲しみは同時にやってくる。