『ペパーミントソーダ』1963年のアルバム、13歳の少女への手紙
オレンジ色のセーター
「思春期を幸せな時期にしたくはありませんでした。13歳の少女にとって、ストッキング1足でも必死に何かを欲し、誰にも理解されないことがどれほど辛いことかを描きたかったのです」*2 『なまいきシャルロット』と『小さな泥棒』(88)のシャルロット・ゲンズブールが、たった数年でまったく違うように、十代の容姿はあっという間に変わってしまう。『ペパーミントソーダ』の二年後に公開された映画におけるエレオノール・クラーワインは、背が高く雰囲気がまったく変わってしまっていることに驚かされる。本作は“1963年に私たちはどこにいたのか?”というディアーヌ・キュリスのスケッチであると共に、このとき、この夏にしか記録できなかったエレオノール・クラーワインという少女のスケッチである。 ディアーヌ・キュリス主導による衣装、色彩感覚が圧倒的に素晴らしい。抑圧された世界において、少女たちの纏うファッションは、衣装自体が無邪気さや主体性=反抗の象徴になっているように思える。また80年代のフランス映画を代表するあの美しい『ディーバ』(81)や、アメリカに渡り『ヘンリー&ジューン/私が愛した男と女』(90)の撮影監督を務めることになるフィリップ・ルースロによる撮影には、色褪せたアルバムを一枚一枚めくっていくようなノスタルジーに溢れている。 『ペパーミントソーダ』はディアーヌ・キュリスの自伝的な作品だ。いつの日か、女子校時代の屈辱的な体験を描くことを心に決めていたという。ディアーヌ・キュリスの最初の三作品には、映画作家本人に関わる物語が描かれている。『ペパーミントソーダ』の姉妹編にあたる『Cocktail Molotov』(80)の主人公には、再びアンヌという名前が付けられる。17歳になったアンヌは1968年の五月革命とすれ違う。“政治の季節”を見逃してしまった三人の若者たち。アンヌと二人の青年によるロードムービーであるこの傑作は、青年たちの無軌道な旅を描いた『バルスーズ』(74)に対する女性映画作家からのアンサーであり、アンチテーゼといえる。旅の主導権は常にアンヌが握っている。イザベル・ユペールとミュウ=ミュウをダブル主演に迎えた三作目となる監督作『女ともだち』(83)では、母親の生きた時代が描かれている。人生のアルバム。ディアーヌ・キュリスにとって映画を撮ることは、自分に関わる過去を理解していく行為なのだろう。 『ペパーミントソーダ』のアンヌはディアーヌ・キュリスの分身であり、フレデリックは姉とディアーヌ・キュリスのミックスだという。夏休みの最終日、父親に見送られバカンスから帰る電車のシーンに続き、「オレンジ色のセーターを貸したままの姉へ」というなんともチャーミングなメッセージがスクリーンに示される。実際にはセーターなど貸していないにも関わらず、映画を見たディアーヌ・キュリスの姉はセーターを返してないことを謝ってきたという。フィクションによって人生のアルバムが書き換えられた面白いエピソードといえる。