米国“初”「1期のみ」の第二次トランプ政権の特異性、現実離れした公約の断行も、激変する米国内外情勢展望
保護主義への転換
評論誌「Washington Monthly」(1月2日付け)は「トランプはアメリカを保護主義の谷底に陥れようとしている」との見出しを掲げ、トランプ氏がバイデン大統領に先んじて、日本製鉄によるUSスチール買収阻止を声高に叫んできたことや、1月元旦の自らのSNSで外国製品に対する関税について触れ「過去の経験に照らし、諸関税のみがわが国に莫大な富をもたらす」「関税は国家債務を相殺し、再びアメリカを豊かな国にする(MAKE AMERICA WEALTHY AGAIN)」などと言明したことを問題視している。 関税問題に敏感に反応する船舶業界専門メディア「Freight Waves」によると、トランプ次期政権の関税政策は「3波」から成り、中国をターゲットにした「第1波」は今年夏までに「最低でも10%課税」が打ち出される。続いて「第2波」として26年9月までの間にメキシコからの輸入品に対する関税率が75%にまで引き上げられる。並行して「第3波」として、それ以外の諸国からの輸入品に対しても3%課徴金案が上程されており、専門家の分析では、26年末までに外国製品に対する平均関税率は8%近くに達する見込みという。 もし予測通りの課税が行われた場合、1930年に成立した悪名高い保護主義法「スム―ト・ホーリー法」以来の大幅な関税措置となる。 「スムート・ホーリー法」は、前年1929年に勃発した大恐慌の最中、フーバー大統領が国内産業保護を目的として打ち出した大幅関税引き上げ措置だったが、英独仏などの貿易相手国が報復措置として関税引き上げに踏み切ったため、結果的に世界貿易を減少させただけでなく、第二次世界大戦の遠因にもなったとされる。 しかし、大統領はじめ次期政権を担う関連省庁のトップたちが、果たしてこうした「歴史の教訓」を学んでいるかどうかについては疑問符がつきまとう。
外交=公約と現実のギャップ
トランプ次期大統領が外交面でただちに取り組むべき喫緊の最大課題は、バイデン政権と同様、ウクライナ戦争だ。ロシア侵攻以来、来月でまる3年を迎えるが、米国としてこれまで対ウクライナ支援のために、経済、軍事合わせ1810億ドルもの巨費を投じてきた。しかし、最近に至るまで、戦争終結の見通しは全く立っていない。 これまで選挙戦などを通じ、「大統領就任1日目に戦争を終わらせる」と公言してきたトランプ氏だったが、当選後、いよいよ20日のホワイトハウス入りが近づいた1月7日の記者会見で、「6か月はほしい。できればそれより早く終わらせたい」と弱気の姿勢を見せた。ロシア、ウクライナ双方の主張と立場があまりにも開きすぎている現実に直面し、一歩後退した印象をぬぐえない。 しかし、ウクライナ問題にかぎらず、朝鮮半島情勢でも、結果的になんの成果も挙げられなったものの、いきなり北朝鮮に乗り込み、金正恩総書記と会談した例にならい、トランプ氏が再び唐突な行動に出る可能性は否定できない。 軽率な行動が国際危機を引き起こす恐れもある。 トランプ前政権下で大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたジョン・ボルトン氏は、英紙「Guardian」とのインタビューで「第二次トランプ政権の下で大きな国際危機が発生する可能性は以前にもまして大きい」と前置きして以下のように語っている: 「彼は、その都度直面する重要な政策課題について集中して決定を下すことができず、私はそのことが、(諸外国から)どう受け止められるかを非常に心配している……ロシアのプーチン大統領が、トランプ自身は利用されていることの危険に気づかないまま、彼を巧みに操ることができると感じている。プーチンにしてみれば、彼は手玉に取りやすい標的だ。相手が自分のことをどう見ているかを理解できないとしたら、それこそ『状況認識の欠如(lack of situational awareness)』を意味し、トラブルを惹起させうる。ウクライナ、そして中東ガザ紛争についても、『即時解決』を吹聴しているが、それこそまさにトランプそのものであり、大言壮語(braggadocio)の典型だ」 その一方で、トランプ氏が「アメリカ第一主義」に固執し、対外コミットメント軽視の姿勢を一段と強めるシナリオについても、ジョージ・W・ブッシュ大統領(共和党)当時の首席補佐官だったアンドリュー・カード氏は「今日、世界は極めて危険な状況にあり、まさに今こそアメリカのリーダーシップを必要としている。国民がそれを求めているかどうかではなく、アメリカは今義務付けられている。もし、アメリカが様々な国際的挑戦に対して何も行動を起こさなかったならば、その空間を他国が埋めにかかろうとするだろう」と警告している。 まさに中露などによる冒険主義的挑発の可能性に言及したものだ。 いずれにしても、今後、トランプ氏の前には、「トランプ1」当時以上の幾多の難題が内外に立ちはだかっていることだけは確かだろう。
斎藤 彰