朝ドラ『虎に翼』寅子は“子供をないがしろにする悪い母親”か? モデル・三淵嘉子さんが語った「働く女性の子育て論」とは
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』では第16週「女やもめに花が咲く?」が放送中。寅子(演:伊藤沙莉)は新潟地方裁判所へ異動し、娘の優未(演:竹澤咲子)と新生活を始める。仕事一筋で生きてきたために親子の溝が深まってしまったことを悔いる寅子は必死にそれを埋めようとするが、なかなかうまくいかず……という展開だ。寅子のモデルである三淵嘉子さんには息子が1人おり、「働く母親と子の愛情」について雑誌に寄せた文章の中で触れていた。「働く母親のパイオニア」は、どのような答えを出したのだろうか。 ■寅子は「母親失格」なのか? 大前提として、三淵さんは夫婦が共に働く「共稼ぎ」状態の結婚生活について、夫の協力がなければ女性が仕事と家庭を両立させることは困難である」としている。 その上で、母子の愛情については要約すると以下のように述べている。「子供の世話を実際にみるということと母親の愛情はまた別物だと思っている。仕事をしている母親が、子の面倒をみることにおいて他の誰かの手助けを必要とすることはもちろん言うまでもないことで、それを『母親としての愛情が足りない』と悩む必要はないはずだ」と。 また、続けてこうも述べている。「世間の人はそんな母親をみて『悪い母親だ』と言うかもしれないが、それで母親が人間として一人前になれるのであれば、それ以上周りから『良い母親だ』と思われる必要はないのではないか。いつか子供が成長した際、その子が自分の母親を人間として尊敬できるのなら、その子はきっと母親の生き方を理解してくれるだろう」 この文章が雑誌に寄稿されたのは、昭和34年(1959)のことである。それから65年が経った現在でも、キャリアと子育て、そして世間からの心ない言葉に悩む女性は多い。今から半世紀以上前に嘉子さんがこの考え方を明確に世に出したことがどれほど先進的かつ勇気のあることだったか思い知らされる。 ただし、嘉子さんとて仕事と子育ての両立に葛藤しなかったわけではない。この文章から随分後になって、嘉子さんは再度子育てについて語った。要約すると「この日本の社会において女性の自立と育児の責任が両立できなくなった場合、私は子育てのために女性が自分の自立を少し先に延ばすしかないと考えている。なぜなら、そのツケを子供に回すわけにはいかないからだ」ということだ。 嘉子さん自身の経験もあるだろうし、女性が社会に出て働くことが少ない時代にその最前線を歩き続けてきた分、多くの女性の葛藤や挫折を見てきたことだろう。法曹界だけでなく、職をもつ女性が母親としても完璧であることを求められ、追い詰められる姿も見ていたのかもしれない。 現代はライスタイルが多様化し、家族の在り方の選択肢も格段に増えた。それでもなお働く母親の苦悩や葛藤が続いている現状をもし嘉子さんが目にしたら、どんな気持ちを口にするのだろうか。 <参考> ■神野潔『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(日本能率協会マネジメントセンター)
歴史人編集部