春日部共栄’19センバツ/上 バッテリー 意思疎通徹底図る /埼玉
<第91回選抜高校野球> 「強い共栄を取り戻す」を合言葉に、春夏合わせて計7回の甲子園出場を誇る春日部共栄が22年ぶりにセンバツの大舞台に戻ってきた。投手、打撃、守備を担う3人の指導者に支えられながら、名門復活を期す選手たちの姿を追う。【畠山嵩】 日が落ち、冷たい小雨が降る2月下旬。同校練習場のブルペンで、エースの村田賢一投手(2年)がこの日最後となる150球目を捕手の石崎聖太郎主将(同)のミットに投げ込むと、「パーン」と乾いた音が響いた。 「爪、削りすぎてないか?」。投球練習を終えた村田投手に、2007年から投手を指導する佐藤充彦部長(35)が声をかけた。指先をじっくりと見る。「一つでも悪いところを気づけるかと思って」と説明する。 指先をチェックするようになったのは苦い経験からだ。夏の甲子園に出場した翌年の15年の秋季県大会で優勝を逃した。試合後、投手の指のまめが潰れていたことを知った。 「甲子園の後で慎重にしなければいけなかったのに、こんなにひどくなっているのかと。責任を痛感した」と打ち明ける。今は投球練習後、必ず全投手の指先を確認する。 「佐藤部長には技術面、精神面で助けてもらえる」。昨秋の県大会優勝と関東大会準優勝の原動力になった村田投手は佐藤部長に厚い信頼を寄せる。特に精神面での影響が大きい。昨秋の県大会3回戦の正智深谷戦。守備の乱れが続き、試合中に怒りを爆発させた。翌日、佐藤部長から「打たせたお前が悪い」と言われた。 「ああ、そうだな」。その言葉が素直に頭に入った。野手が守ってくれているという意識が足りなかったことに気づいた。「野手とのコミュニケーションも大事。感謝して投げないと」。一人で踏ん張るのではなく、野手を信頼して投げる大切さを学んだ。 新チームが発足した昨年9月から村田投手の球を受けてきた石崎主将も「キャッチングなど捕手に必要なことを一から教えてくれた。配球に困ってもすぐに聞きに行ける」と佐藤部長を頼りにする。 村田投手とバッテリーを組む際、佐藤部長からはコミュニケーションをよく取るように言われた。試合中にベンチに戻ると一球一球、配球を確認する。寮の部屋も同室で、膝をつき合わせて「なぜあの場面で首を振ったのか」など徹底的に議論。県大会優勝に結び付いた。 佐藤部長は「石崎は村田の短気な部分を理解して配球を組み立て、投げたい球とはあえて別の球種を要求することもあった。県大会、関東大会を通じていいリードだった」と評価する。 チームの屋台骨に成長した村田投手、石崎主将のバッテリーと共に約1カ月後、佐藤部長は甲子園に向かう。「うちは守備からリズムを作る野球をずっとやってきた。村田には攻撃につながる投球を見せてほしい」と期待を込めた。