「韓国人」「モンゴル人」についで「日本人」が世界で3番目に発症率が高い「胃がん」についての「驚くべき事実」
日本人には、日本人のための病気予防法がある! 同じ人間でも外見や言語が違うように、人種によって「体質」も異なります。そして、体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたも変わることがわかってきています。欧米人と同じ健康法を取り入れても意味がなく、むしろ逆効果ということさえあるのです。見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための方法を徹底解説! 【写真】じつはいま「日本人」のあいだで発生率が急上昇している「がんの種類」 *本記事は『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』(講談社ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。
胃がんの原因はピロリ菌?
胃がんは日本を含む東アジアで非常に多く、欧米で少ないがんです。2012年の国際統計によると、胃がんの発症率が世界一高いのは韓国で、モンゴルが2位、日本が3位、中国が5位でした。西欧や北米の国は20位までに見あたりません。 日本で胃がんが多いのは今に始まったことではなく、1998年に肺がんに抜かれるまで、日本人のがんによる死亡の不動の1位が胃がんだったのです。その後、早期発見、早期治療できるようになったことで、胃がんで亡くなる人の割合は大きく下がり、同じく2012年の統計では、1位のモンゴル、3位の中国のずっと下、世界25位になっています。そして、胃がんの発症率も、図7-1の上のグラフに示すように、おだやかに下がってきました。 しかし、患者数は足踏み状態です。その理由がこちら。図7-1の下のグラフを見てください。これは、胃がん発症率の年齢による変化を男女別にグラフにして、その結果を1980年と2010年で比較したものです。 男性と女性の発症率が明らかに違うのが目につきますが、これはあとで考えるとして、まずはカーブの傾きを見てください。男女そろって、55歳を過ぎるくらいから急激に胃がんが増えています。1980年には男女ともに70~80代で発症率がピークになっていたのが、2010年にはピークになる年齢が上がっています。 胃がんは年齢を重ねるにつれて発症しやすくなるがんなので、平均寿命がのびると、胃がんの患者が増えるのです。ただし、冒頭にあげた統計はすべて年齢調整してあります。高齢化の影響を差し引いても、日本人は世界で3番目に胃がんを発症しやすい民族だということです。 ここまで読んで、「東アジアはピロリ菌に感染している人が多いのかな」と思った皆さん。するどいですね。日本はピロリ菌に感染している人の割合が、先進国のなかで最も高いことが知られています。 図7-2をご覧ください。これは1989年の古いデータですが、日本を含む世界各国でピロリ菌に感染している人の割合を年齢別にグラフにしたものです。欧州とオーストラリアは、のきなみ感染率が低くなっています。しかし、よく見てください。低いといっても日本の半分くらいあります。それなのに、胃がんになる人の割合は半分どころか、日本の5分の1から10分の1です。また、この図で日本より感染率が高いインドとベトナムは、さぞや胃がん大国なんだろうと思いきや、先ほどの国際統計によると、ベトナムの胃がん発症率は日本のほぼ半分で世界18位、インドにいたっては20位までに入っていません。これはいったいどうしたことでしょうか? この原因を考える前に、すっかり有名になったピロリ菌について、ざっとおさらいしておきましょう。ピロリ菌、正式にはヘリコバクター・ピロリ菌は胃の粘膜に生息する細菌で、日本では50歳以上を中心に約6000万人が感染していると言われています。 胃は刺激の強い胃酸を分泌していますが、ピロリ菌は特殊な酵素を持っていて、自分の周囲をアルカリ性にして、胃酸を弱めながら暮らしています。ヘリコバクターの「ヘリコ」は、ヘリコプターのヘリコと同じく、螺旋という意味です。その名のとおり、ピロリ菌はアルファベットのSの字状に曲がり、触手のような毛が数本はえた姿をしています。 ついでに言うと、「バクター」はバクテリア、つまり細菌のこと、そして「ピロリ」は胃の出口の部分を指します。ピロリ菌が胃の出口あたりで見つかったことから名づけられました。 ピロリ菌に感染すると胃に炎症が起きますが、ほとんどの人は自覚症状がありません。しかし、感染が続くと、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、そして胃がんを招くことがあります。日本でおこなわれたコホート研究から、ピロリ菌に感染している人は、感染していない人とくらべて、胃がんの発症率が10倍高いことがわかりました。その逆にピロリ菌をうまく除菌できれば、その後の胃がんの発症率が、除菌できなかった人の3分の1になります。ピロリ菌の感染が、胃がんに加えて鉄欠乏性貧血、慢性蕁麻疹、糖尿病、さらにはアルツハイマー病の発症にも関係する可能性が示されたことから、日本癌学会、日本消化器病学会を始めとする専門学会は、ピロリ菌に感染している人は、すみやかに除菌治療を受けるよう、強くすすめています。 胃がんのうち、約10%はスキルス胃がんという特殊ながんです。スキルスとはギリシャ語で「硬い」という意味で、胃の壁が固く、厚くなることから名づけられました。進行がはやいうえに早期発見が難しく、治りにくいがんです。本章では、スキルス胃がんをのぞいた、通常の胃がんについて説明します。