「24時間、真っ暗な部屋から出られない」“眼球使用困難症”を患った50歳男性の告白。公的支援も受けられない
「指定難病に入っていない難病」との闘い
そんなエンターテインメントに囲まれた日々を過ごしていた矢野さんに、「眼球使用困難症」の症状があらわれたのは2017年のことだった。 「はじめはドライアイだと思ったんです。あるとき、とにかく目が乾くようになりました。それで眼科で目薬をもらったんですけど、全然治らなくて……。それが7~8ヵ月続いたころ、朝目覚めて電気を点けたら、部屋の灯りが異常につらく感じたんです。そこから人工光がキツくなっていくのは早くて、給湯器のリモコン、お風呂の設定40℃とか、あの文字盤を見るだけで具合が悪くなるようになりました」 発症当初は、電灯をはじめ、スマホやPC、テレビなどの人工光だけだった。しかし病状はしだいに悪化。徐々に太陽や月の光、自然光からも深刻なダメージを負うようになり、2021年1月には、人工光・自然光ともに目にすることができなくなった。そして2023年12月からは一歩も外に出ていないという。 現在は、遮光カーテンを閉め切った完全に真っ暗な部屋で、アイマスクの上から、さらに顔全体を覆う遮光ドームを被せた状態で24時間過ごしている。 眼球使用困難症の原因や治療法などは解明されておらず、患者数が少なく認知度も低いこともあってか、研究が進んでいないようだ。その結果、現時点では厚生労働省が定める「指定難病」に入っていないという。つまり、患者は行政からの公的支援が受けられないということ。妻の久美子さんが在宅ワークをしながら、矢野さんを付きっきりで支えている現状だ。 「病気そのものが、一般の方はもちろん、行政にも認知すらされていないのが実情だと思います。だから議論する対象にすらなっていないんです。そうなると、まずは知ってもらう努力をするしかないと思っています」
マイノリティな病気であることの辛さ
「自分の病気はマイノリティ・オブ・マイノリティ。共感してくれる人、苦しみを共有して励まし合える人が本当にいないんです」と、矢野さんは続ける。 「つい先日、YouTubeにコメントをくれた方が、どうやら似たような目の病を抱えていることがわかったんです。こういうとき不便だよね、つらいよね、という実感を共有できたとき、ふるえるほど嬉しかったですね」 光が完全に遮断された、真っ暗な部屋で24時間。外には一歩も出られない。入浴も、光刺激がもっとも少ない真夜中の時間帯に、体調を見ながら妻の介助を得て入っているという状態だという。 「新型コロナが流行していたとき、ホテルで一週間隔離されてつらかった、というエピソードをよく耳にしました。ご本人は、たしかにつらかったのでしょう。でも僕は、『ネトフリ観られるんでしょ? スマホ触れるんでしょ?』と思ってしまいましたね。目がちゃんと使えて同じ状況になれるなら、5年隔離されてもいいくらいです」 また、「先天的に目が見えないのか、後天的に目が使えなくなったのかの違いも大きい」と矢野さんは話す。 「そこにはまた、違った苦悩があると思います。しかも僕の場合は、症状が出だしてからまだ7年ほどですし、40歳を過ぎてからの発症だったので、健常者より耳や触覚が発達しているとか、そういうことはないです。いきなり真っ暗闇の中に放り込まれた、という印象が今も拭えないですね」