匿名・流動型犯罪グループ トクリュウの実態
匿名・流動型犯罪グループ(略して「トクリュウ」)による事件が、社会を騒がせ続けている。本稿ではまず、トクリュウとはどのような存在なのかについて、現在までにわかっていることを整理する。トクリュウによって引き起こされる犯罪の特徴にも触れる。最後に、このような犯罪を減らしていくためにいかなる対応策が考えられるかについて、被害者の圧倒的多数を占める高齢者の自衛策を中心に論じる。 (『中央公論』2024年12月号より抜粋)
「ルフィ事件」の衝撃
トクリュウが社会的に大きな注目を浴びるようになったきっかけは、2022年から23年にかけて、全国で相次いで発生した強盗事件だ。警察が逮捕した実行役のスマートフォンを解析したところ、「ルフィ」「キム」などと名乗る人物が、フィリピンから指示をしていることが判明──SNSで募った実行役に対し、通信アプリ「テレグラム」を通じて、犯行の日時、場所、手口などを伝えていたという、一連の事件である。 とりわけ、23年1月に東京都狛江市で発生した強盗殺人事件は、世間に少なからぬ衝撃を与えた。犯人は、90歳の女性宅に宅配業者を装って押し入り、女性の両手を結束バンドで縛って、腹や背をバールで殴るなどして死亡させたうえで、高級腕時計などを奪った。女性宅に侵入した実行犯は4人で、うち2人は20代の男性、1人は当時19歳の大学生であった。 ちなみに、当時10代のこの男性は、22年4月施行の改正少年法の規定により「特定少年」と位置づけられ、起訴後に実名を伝える報道機関もあった。裁判では、暴行自体への関与はないものの、暴力を振るう可能性があることを認識していたとされ、今年9月に懲役23年の実刑判決を受けている(その後本人が控訴)。
白昼の銀座での時計店強盗も
周知のように指示役のルフィらは、2023年2月、フィリピンから日本に移送された。同一グループの可能性がある強盗や窃盗は、10を超える都府県で数十件にのぼるとみられる。そして、これこそがトクリュウの最大の特徴であるが、逮捕された三十余人は、会社員、建設作業員、学生などさまざまで、事件ごとに実行犯は異なる組み合わせであった。事件全体を俯瞰すれば、確かに同一グループによる犯罪なのだが、そのグループを構成する実行犯役のメンバーは流動的であり、互いに面識がないことすらあるのだ。 東京・銀座の高級時計店に仮面姿の集団が押し入った事件も、記憶に新しい。23年5月に起きたこの事件は、実行犯に16歳の少年が含まれていたことも相まって、社会の耳目を集めた。暴力団関係者から金銭を要求されていた1人が強盗の遂行を持ちかけられ、知人らを誘って敢行したと報じられている。前述のルフィらの逮捕後に起きているから、指示役は別にいたと考えられる。これもトクリュウによる犯罪とみてよいだろう。