『宙わたる教室』実写化は“運命”だった 制作陣が心がけた“あえての余白”と宇宙への思い
「ここは諦めたものを取り戻す場所ですよ」 現在放送中のドラマ『宙わたる教室』(NHK総合)は、実話に着想を得て生まれた伊与原新の小説が原作。さまざまな事情を抱える定時制高校の生徒たちが、窪田正孝演じる謎めいた理科教師・藤竹の導きにより、科学を通じて人生を切り拓いていく姿が描かれている。派手な展開や演出はないのに、観る人の心を大きく震わせるこのドラマはどのようにして生まれたのか。制作統括の神林伸太郎(NHKエンタープライズ)、橋立聖史(ランプ)と、第1話から第4話の演出を担当した吉川久岳(ランプ)に話を聞いた。(苫とり子) 【写真】藤竹先生から雰囲気一変 窪田正孝インタビュー撮り下ろしカット
プロデューサー&演出の目に留まった原作の魅力
ーーこのドラマは約一年前に発売された伊与原新さんの小説が原作となっています。企画を担当された神林さんは、原作のどこに魅力を感じてドラマ化しようと思われたのでしょうか? 神林伸太郎(以下、神林):定時制という特殊な舞台に加え、単なる学園ものではなく、本作は苦しい状況や逆境に晒されている人たちが科学を通じて一つの成功を勝ち取っていく物語になっていて、ものすごく勇気をもらえる。なおかつ、実話に着想を得ているというところに熱いものが込み上げてきて、ドラマ化したいなと思いました。 ーー神林さんが別のインタビューでお話しされていましたが、橋立さんと吉川さんもたまたま同じ原作を読んでいたそうですね。 吉川久岳(以下、吉川):そうなんです。私は新聞広告で原作を知ったんですが、定時制が舞台であるという点と、その中でも科学部をメインにした物語というところに魅力を感じ、すぐに購入して読んだという経緯があります。 橋立聖史(以下、橋立):私も吉川さんと特に何の相談もなく、企画になりそうな作品を探しに本屋へ行ったときに、たまたま目に入ったタイトルとカバーのイラストに惹かれて手に取った作品が『宙わたる教室』でした。そしたら、しばらくして神林さんから「原作もので企画を一本考えてるんだけど、定時制を舞台にした作品で……」と電話がかかってきて、すぐにピンときましたね(笑)。これまでおふたりとは何度か作品でご一緒させていただいていますが、今までこんな経験はなかったので率直に驚きました。 ーー偶然3人とも同じ作品に惹かれたという点に運命めいたものを感じます。神林さんは企画の段階から、主演は窪田正孝さんにお願いしようと考えていたのでしょうか?。 神林:企画の段階では、まだ誰にお願いするかは決めていませんでした。記者会見でも少しお話ししましたが、原作の藤竹は淡々と生徒を導いていて、彼自身は大きな変化は見せていません。ドラマではそこに藤竹自身も生徒と一緒に成長していくという要素を付け加えていますが、成長前の段階ではただただ冷静でありながら、どこかに熱いものを秘めているということを見せなければいけない。すごく難しいことだと思うんですが、でもそれを信じさせてくれる人って誰だろうと橋立さんたちと話し合っている中で、窪田さんのお名前が上がってきました。 ーー実際に現場でディレクションされている吉川さんは、窪田さんが演じる藤竹のどこに魅力を感じていますか? 吉川:窪田さん自身がとても淡々として知性的で、もともと藤竹というキャラクターのイメージを内包されている方。ただ本読みの段階ではイメージしていたよりもフラットな印象を受け、ここまでクールなキャラクターが主人公で最後まで持つのかなという不安は正直ありました。だけど撮影初日に窪田さん演じる藤竹の姿を見て、この方向性で大丈夫だと思いました。ここからきっと変化していくのだろうと思わせる余地もしっかり残されていて、窪田さんの演技で藤竹がより魅力的なキャラクターになったと感じています。なので、私の方から細かく注文することはせず、窪田さんが打ち出す藤竹像を崩さないように演出させていただきました。 ーー窪田さんに取材した際に「自分は主役だと思っていない」「あくまでも主役は科学部のみんな」と話していたのが印象的でした。実際に生徒役のみなさんの個性が光っているなと思うのですが、なかでも科学部の部員第一号となった岳人を演じる小林虎之介さんが注目を集めています。改めて、小林さんをキャスティングされた理由を教えていただけますか? 吉川:岳人は藤竹に次ぐ重要なキャラクターで、キャスティングについては一筋縄にはいかなかったんですが、神林さんが「小林虎之介さんはいかがですか」と見せてくださったのが『下剋上球児』(TBS系)の映像で。最初に拝見したときは、原作の岳人よりもかわいらしさが勝る印象を受けました。ただ、岳人は学習障害を抱えているがゆえにうまく社会に溶け込めなかっただけで、根っこは純粋でまっすぐなキャラクターだと私は理解しています。その部分を小林さんは表現できる方なんじゃないかと思い、オファーさせていただいた次第です。 ーー神林さんはなぜ、小林さんがいいと思われたんでしょうか? 神林:私が印象に残ったのは、『下剋上球児』第4話。小林さん演じる壮磨が赤い髪をバッサリ坊主にして、野球部を引退したお兄さんに「俺がザン高勝たせてたるわ」と宣言する場面があり、泣きの芝居に胸を打たれました。その後、『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系)でプライドの高い研修医を演じられているのを見て、態度とは裏腹に素直さが滲み出てしまう感じや少し尖った感じの両方を表現できるという点で岳人に合っているのではないかと思ったのが理由です。