『宙わたる教室』実写化は“運命”だった 制作陣が心がけた“あえての余白”と宇宙への思い
窪田正孝の言葉で全員が同じ方向に
ーー現段階で今期ドラマNO.1の声も名高い本作ですが、視聴者からの反応を受けて率直な思いをお聞かせください。 橋立:やっぱり原作がものすごく力強さのある作品なので、そこをドラマでいかに取りこぼさないように視聴者の方に届けられるか。実験シーンに関しても、原作を読んだときに頭の中で思い描いていたイメージを魅力的に具現化できるように吉川さんとも話し合って丁寧に作っていったので、そこが伝わっていれば嬉しいなと思います。 神林:SNSを見ていても我々の意図を視聴者の方がしっかりと受け止めてくださっているのを感じて、本当にただただ嬉しく思っています。反面、あまりにも制作側の意図が見えすぎてしまうとあざとく感じられてしまうと思うんですが、吉川さんの繊細な演出のおかげでじんわりと染み入るシーンが生まれています。例えば、第3話で伊東蒼さん演じる佳純が保健室の来訪ノートに藤竹からのメッセージが書いてあるのを見つけて、何度かやりとりしているうちに楽しくなってくるんですが、その感情を決して台詞では表さず、ノートを見るためにちょっとだけ小走りになる姿で伝えているんですね。それがすごく印象的で、個人的にあそこをどういうふうに設計したのか、吉川さんにお聞きしたいと思っていました。 吉川:私自身がそうなんですが、ちょっとした仕草や行動からその人の感情を読み解くことって日本人はすごく好きなんじゃないかと思うんです。文学にしろ映像にしろ、物語の行間を読んで、「この人ってもしかしてこう考えてる?」みたいなことを紐解いていく作業をみんなどこかでしている。なので、台詞以外で登場人物の心情を表すものを画面に盛り込めたらいいなというのは、今回に限らず常に意識しながら演出しています。特に佳純の回はすごく繊細なお話なので、ちょっとした小走りになるところだったり、喋っている途中でほんの少し間ができるところだったり、言葉にならない表現はいつも以上に盛り込んだつもりでした。 ーー吉川さんの演出と伊東さんの繊細な演技が相乗効果を生み、すごく素敵なシーンになっていると私も思いました。窪田さんが取材で伊東さんについて“影のエース”で、科学部のメンバーとして加わってから全体の雰囲気が変わったとおっしゃっていたんですが、吉川さんから見た伊東さんの印象はいかがですか? 吉川;伊東さんはすごくしっかりされていて、演技力もさることながら、作品や役に対する理解度が高い方です。科学部のメンバーが楽しそうにしているシーンなんかはオフ台詞で自由度高く作っているんですが、みんなが遊びすぎたときも伊東さんはアドリブの中でしっかりと本筋に戻してくれる。一番年下でありながら、我々を導いてくれるような頼もしさがありました。かといって自分の芝居に固執して、人の意見を聞かないということもないですし、こちらの意図も真剣に汲み取って表現しようとしてくださるので、とても助かりました。 ーーそんな一人ひとりの力を集結させた撮影を振り返ってみての感想をお聞かせください。 橋立:撮影が始まったときに、窪田さんが「観ている人が入っていける余白を作りたい」とおっしゃっていたのが心に残っています。私がこれまでに経験した連続ドラマの現場だと脚本家の方から上がってきた台本をとにかく撮って、編集作業して、を繰り返す……という感じだったんですが、今回は脚本作りの段階から澤井さんも吉川さんと議論し合ったり、俳優部のみなさんも自分たちにできることはなんだろうと真剣に考えてくださったり、みんなが窪田さんの言葉を胸に時間をしっかりとって丁寧に作っていきました。神林さんにも無理を言って撮影や納品のスケジュールを調整していただき、全員で納得いくまで頑張ることができた作品だと思います。 ーードラマの撮影現場も科学部のように、みなさんで実験されているような感じだったんですね。 橋立:おっしゃる通りです。大変でしたけど、その分楽しさもありました。ただ一つだけ気になっていたんですが、現場で飛び交う意見をまとめなきゃいけない立場にある吉川さんは大変だったんじゃないでしょうか……。 吉川:それは当然、大変ですよね(笑)。ただ、私はいつも撮影に入る前に考えていたプランとは違う、現場でしか生まれない要素をいくつ拾えるか、に懸けているところがあって。そういう意味では今回の現場ではたくさんの拾い物ができて、それが作品全体を豊かにしてくれたんじゃないかと思っています。 ーーこのドラマを企画し、制作統括を務めた神林さんはそういう現場をどのように見ていらっしゃったのでしょうか? 神林:ドラマの中の科学部のように、一緒にモノづくりをしていく過程で結束力のあるチームになっていくのを感じました。窪田さん、小林さん、伊東さん、ガウさん、イッセー尾形さんの科学部5人も本当に仲が良くなり、先日は主題歌を担当するLittle Glee Monsterさんのライブに全員が参加して盛り上がりました(笑)。撮影現場ではスタッフと出演者はだけでなく、マネージャーのみなさん含め、関わってくださったみんなが現場の雰囲気作りに協力してくださったので、伊東さんも打ち上げで「終わりたくないです」って涙を浮かべたくらい、みんなが素敵なチームを作りあげたんだな、と感じました。橋立さんが先ほどおっしゃっていたように、全員が同じ方向をむいて一つの作品を作り上げていったからこそ、自然とそういうチームワークが生まれたのではないかと思っています。
苫とり子