「悲劇的な結果につながる」ロシアで続出“四足歩行の若者”が大問題になっているワケ、ロシア正教も問題視
ロシアがこのように独自の価値観を重視し、西側の価値観を否定するのは、過去にも見られたことだ。例えば、フランス革命とそれに続くナポレオンのヨーロッパ席巻により、革命由来の民主主義、自由主義の思想がヨーロッパで影響力を持ち始めた時、時のロシア皇帝アレクサンドル1世は、神聖同盟なる多国間同盟を主唱し、キリスト教に基づく正統主義による支配の擁護を主張した。 つまり、自由民主主義思想の影響力が拡大するのを阻止しようとしたのである。アレクサンドル1世の場合も、プーチン大統領の場合も、西側から輸入される新たな思想や価値観が、ロシア社会を内的に破壊するものだと受け止め、対外的な脅威認識に結びついているのである。
過度な自由主義を脅威と感じているのは、何もロシア正教の信徒だけではない。アメリカの共和党の強固な支持層であるキリスト教右派は、同性愛や人工妊娠中絶に強い抵抗を感じている社会層である。そしてこれらの問題はアメリカ政治においても大きな争点になっている。 日本でも夫婦別姓の是非が今回の衆議院選挙の大きな争点の1つになっているが、これもまた、日本の伝統的価値観、保守的な家族観に関する問題である。 ■国家が外的脅威を感じると寛容性が失われる
そう考えれば、ロシアでのクアドロビクスをめぐる騒動も、日本の政治状況とそう遠く離れているわけではない(ちなみにロシアでは夫婦別姓が認められているそうである)。そもそも、こうした価値観の問題をひとくくりに評価すること自体ができない相談なのだ。 ウクライナ紛争について触れれば、2022年秋にロシアが30万人の予備役を動員したことで騒がれたが、ウクライナはもっと大規模な動員を行っており、いま新たに徴兵年齢を引き下げようとしている。
自由な社会、寛容な社会という理念と、団結した社会、国家という理念は、互いに相いれないのかもしれないが、ロシアやウクライナを見ていると、国家が外的脅威を感じるようになれば、必然的に社会的な統制が強まり、寛容が失われるようになるのは共通の事態のようだ。
亀山 陽司 :著述家、元外交官