「SL大樹」鉄道事業社の一致団結で実現、6年目で乗車人数50万人突破した人気の蒸気機関車で冬の日光を堪能
文・写真=山﨑友也 取材協力=春燈社(小西眞由美) ■ 転車台の遺構発見がSL復活のきっかけに 【写真】SLの運行にあわせて下今市駅構内に新造された扇形庫。側面がガラス張りで、なかが一望できる 煙をモクモクと吐いて力強く走る蒸気機関車、通称SLは、現在では観光用として復活し全国各地で活躍している。関東地方がもっとも多くのSLが走っており、JR東日本のほか第三セクターの真岡鐵道や、私鉄の秩父鉄道と東武鉄道でその勇姿をみることができる。なかでも東武鉄道では「SL大樹」がほぼ毎日運行しているため利用もしやすく、運行6年目で乗車人数が50万人を突破するなど、人気も上昇中である。 そもそも東武鉄道にSLが復活したのは2017年8月のこと。東武鉄道は私鉄ではめずらしく自社の鉄道博物館を有するなど、鉄道文化遺産の保存と活用の意識は高かった。そんななか東武鬼怒川線の下今市駅構内で、SLの方向を転換する転車台の遺構が発見されたことが一つのきっかけとなり、2015年にSL復活のプロジェクトが立ち上がった。 目的としては先の保存活用のほか、日光・鬼怒川エリアの地域活性化、そして東北復興支援という三つが掲げられた。しかし東武鉄道がSLの運転を終了したのは1966年で、車両はもちろんのこと運行や保守などのノウハウなど残っているはずはなかったのである。 しかしこの趣旨に賛同した鉄道各社が東武鉄道に支援し協力を惜しまなかった。まずは機関車そのものがなければSL列車を運行することができないので、JR北海道が所有していたC11形蒸機の207号を東武鉄道に貸し出した。余談だがこの207号は前照灯が機関車前面の左右に2つ付いており、その見た目が蟹の目にも見えることから、ファンのあいだでは「カニ目」として親しまれている。 また走行に必要な保安システムを搭載するために鳥取県の米子市と愛知県の稲沢市にあった車掌車をJR西日本とJR貨物が、列車を後ろから後押しするディーゼル機関車を栃木県宇都宮市と秋田県秋田市にあったDE10をJR東日本が、そして乗客を乗せるための客車は香川県の高松市にあった12系と14系をJR四国がそれぞれ東武鉄道に譲渡したのである。これらの協力でとりあえず車両は揃った。 そしてSLの向きを変えるための転車台も、JR西日本の山口県長門市駅と広島県三次駅で使われていたものを下今市駅と鬼怒川温泉駅に設置し、とりあえず設備は整った。