貴重な「4.9GHz帯」の獲得に名乗りを上げたのがソフトバンクだけだった理由
しかも、ソフトバンクが総務省に申請した4.9GHz帯の開設計画を確認すると、2030年度末までに全都道府県に特定基地局を開設し、2031年度末までにサービスを開始するとされています。つまり、4.9GHz帯を使い始めるまでに5年はかかる可能性があり、かなり遅い印象を受けてしまいます。 ■意外とハードルが高い4.9GHz帯の活用 一体なぜ、貴重な4.9GHz帯がこのような扱いとなっているのでしょうか? 実は、今回割り当てられる帯域は、ほかに利用している無線システムが存在しており、それらの移行が進まなければ利用ができないのです。 現在、この帯域を使っているのは「5GHz帯無線アクセスシステム」と呼ばれるもので、要は広域で利用できる無線LANのような仕組み。光ファイバーの敷設が難しい場所で高速通信を提供するなどの用途に用いられているのですが、携帯電話会社が4.9GHz帯を使用するには、このシステムを使用している事業者に移行してもらう必要があるわけです。 その移行を早く進めるには、既存の免許人に対して移行費用を負担するなどし、移行してもらう「終了促進措置」を取る必要があり、費用がかかってしまいます。ちなみにソフトバンクの開設計画を確認すると、終了促進措置に向けて負担可能な額は最大で1440億円とされています。
それだけの費用を負担し、時間をかけて移行してもらったうえで、ようやく4.9GHz帯が利用できることになります。そうした手間と費用を考慮した結果、他の3社は申請に手を挙げなかったのではないでしょうか。 ではなぜ、ソフトバンクはそれでも4.9GHz帯の獲得に手を挙げたのかというと、同社に割り当てられているサブ6の周波数帯が少ないからです。現状、携帯4社のうちサブ6の周波数帯(100MHz幅)を2つ割り当てられているのはNTTドコモとKDDIのみで、ソフトバンクと楽天モバイルは1つしか割り当てられていません。 それゆえソフトバンクは競争上、ほかの大手2社と引けを取らないネットワークを構築するため、どうしてもサブ6の周波数帯がもう1つ欲しかったわけです。それは楽天モバイルも同じなのですが、新興の同社は先行投資で経営が厳しいうえ、2023年にプラチナバンドの700MHz帯を割り当てられており、そちらの整備を優先する必要もあって手を挙げなかったと考えられます。 先にも触れたように、ソフトバンクがこの周波数帯を活用するのはやや先となる見通しですが、同社の代表取締役 社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏は、4.9GHz帯の活用時期が以前に取り上げた「AI-RAN」を実装する時期にも重なることから、4.9GHz帯はAIを絡めて活用する可能性を示唆していました。活用に時間がかかってしまうのは残念ですが、4.9GHz帯とAI-RANでどのような取り組みをするのかは楽しみなところです。
佐野正弘