“紀州のドン・ファン”事件 きょう午後判決 最大のポイント「直接証拠なし」 須藤被告を「間違いなく犯人」と言えるのか?【裁判ルポ③】
■状況証拠③ 覚醒剤を摂取させられるのは須藤被告以外ありえない?
もう1つの大きなポイントは事件当日2018年5月24日の状況です。検察側は専門家の分析や防犯カメラの解析などにより、野崎さんに覚醒剤を摂取させた時間を午後4時50分ごろから午後8時ごろの間としています。その時間に自宅にいたのは、野崎さんと須藤被告の2人きりで、その間、須藤被告は少なくとも8回、野崎さんのいる2階に上がったと示しました。 その上で「須藤被告は妻として一緒に食事をするなど飲食物等を提供することが可能だった」としています。 「食べ物に混ぜて覚醒剤を飲ませた可能性がある」という主張とみられますが、弁護側からは「覚醒剤はとても苦く、そのまま飲んでも溶かして飲んでも違和感がある」という指摘がありました。 これに対し検察側は論告で「カプセル等で苦みを感じさせない方法もあり得る。混入物によっては必ず苦みに気づくとも言えない上、覚醒剤とは思わずに飲み込んでしまうことも考えられる。」「被告であれば『苦いが健康にいい』『苦いがよく効く精力剤だから一緒に飲もう』などとして摂取させることも可能」と主張しました。 弁護側は最終弁論で「覚醒剤を食事に混ぜて摂取させるのはリスクが高く、異変を感じて警察を呼ばれたら一発アウトですよね?」「市販薬の大きさのカプセルに入れたら3グラムで30個ぐらいになり非現実的です。またカプセル自体も見つかっておらず、購入や検索履歴もない」と指摘しています。
■最後まで示されなかった「覚醒剤をどうやって摂取をさせたのか」
検察側の主張は須藤被告が犯人である可能性を示したものではありますが、「どうやって摂取をさせたのか」については立証されませんでした。 これについて検察側は論告で 「本件のように薬物を摂取させて殺害した事件では、犯人が正直に話をしなければどのように薬物を摂取させたか判然としないことはやむを得ない」 「健全な社会常識に照らせば、(立証してきた)これらすべてが偶然起きたという事態は到底考えられない」 と主張しました。 これに対し弁護側は最終弁論で 「怪しいと思わせる証拠がいくつか出てきているが、犯人で間違いないといえる立証はなされていない」 「薄い灰色はいかに塗り重ねても黒にはなりません。間違いなく有罪なのかを見極めることが刑事裁判の任務です」 と呼びかけました。 最後に裁判官から「何か言いたいことはありますか」と問われた須藤被告。はっきりとした口調でこう答えました。 「ちゃんと証拠を見て判断していただきたいです」 判決は12月12日、午後1時40分から言い渡されます。
【関連記事】
- ▶【②はこちら】検察側の切り札!?「老人 完全犯罪」「覚醒剤 過剰摂取」検索履歴を裁判員はどう判断するのか
- ▶野崎さんの死を知ったときの喜怒哀楽は「どちらかというと“無”」 紀州のドン・ファン殺害事件 被告人質問で元妻は「目の前にいたら文句を言いたい」「私は何年も人殺し扱い」
- ▶「100万円を渡され、結婚してくださいと言われ、びっくりしました」 “紀州のドン・ファン”殺害事件の裁判で被告人質問
- ▶「遺産目当て 隠していません」“紀州のドン・ファン”殺害事件 元妻・須藤被告への質問続く
- ▶「野崎さんはあいつはあかんなと言っていた」 “紀州のドン・ファン”裁判で元従業員の男性が証言 一方の弁護側は「ドン・ファンが元妻からの離婚話で落ち込んでいた」というSNS上のやりとり読み上げ