“紀州のドン・ファン”事件 きょう午後判決 最大のポイント「直接証拠なし」 須藤被告を「間違いなく犯人」と言えるのか?【裁判ルポ③】
「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家・野崎幸助さん(当時77)が2018年5月に、和歌山県田辺市の自宅で覚醒剤を摂取させられ殺害された事件の裁判。2024年9月12日に始まった審理は結審まで22回あり、あわせて28人の証人が出廷しました。ただ、元妻の須藤早貴被告(28)が野崎さんにどうやって覚醒剤を摂取させたのか、直接的な証拠は示されないまま裁判は結審しています。 【①はこちら】「須藤被告に覚醒剤を売った」 証人に覚醒剤密売人とされる男性登場の衝撃 一方の須藤被告は「野崎さんに買ってきてと頼まれた」 検察側は無期懲役を求刑。弁護側は無罪を主張。12月12日に判決が言い渡される予定ですが、裁判員はどんな判断を迫られているのか?裁判を傍聴した記者が3回に分けてポイントを解説します。3回目は積み上げられた状況証拠をどう見たらいいのかについて解説します。
■状況証拠① 離婚を避けたかったか
この事件は発生当時から、野崎さんを殺害した直接的な証拠がないと言われていて、逮捕・起訴、裁判まで時間がかかったとみられています。9月12日の初公判で出された検察側の冒頭陳述でも、覚醒剤の具体的な摂取方法は示されませんでした。 1つポイントとなるのは動機です。裁判で須藤被告は結婚について「社長本人にも遺産をもらってほしいと言われていて、遺産目当てというのは隠していません」と述べていて、結婚は莫大な遺産や毎月支払われていた100万円が目的だったとしています。遺産は離婚するともらえなくなるケースが多いため、須藤被告としては避けたかったと想像されます。 裁判では野崎さんの会社の元従業員らの証言から、野崎さんに別の結婚したい女性が見つかるなど、事件前に離婚の可能性が高まっていたとされています。 一方弁護側は、野崎さんは日常的に「離婚する」と口にする人で、検察側が過剰に離婚という言葉を印象づけようとしていると反論しています。
■状況証拠② 野崎さんの誤飲や自殺の可能性はないか
誤飲の可能性について検察側は論告で覚醒剤は身近にはない違法薬物で、毛髪鑑定の結果などから野崎さんは常習者ではなかったことに加え、周囲の人が口をそろえて「野崎さんは覚醒剤を毛嫌いしていた」と証言していることをあげ、誤飲事故ではないと主張しています。 弁護側は最終弁論で「野崎さんが覚醒剤を使うはずがないと言い切れるのでしょうか? 紀州のドン・ファンとして知られていたため覚醒剤に関心があってもそのことを隠すことは自然です。覚醒剤が性行為のに際に使われることは知られていて、覚醒剤を入手するルートはいくらでもあったのではないでしょうか?」と指摘しました。 自殺の可能性について須藤被告は野崎さんの愛犬が死んだ時に「(野崎さんが)『イブが死んでしまってもう自分も死にたい』と言ってきた」「泣きながら言ってきて、(それ以来)ずっとおかしかったです」と弁護側の質問に証言しています。 検察側は論告で、事件の翌月に病院の予約や愛犬のお別れ会を予定したことや覚醒剤での自殺は一般的ではないこと、自殺なら覚醒剤に関係するものを処分する必要がないことをあげ、考えられないとしました。
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