江戸時代の日記、地震学に生かせ
江戸時代以前に当時の役人や知識人などが書き残した貴重な日記史料。そこにある有感地震の記述を拾い上げてデータベース化し、巨大地震・大地震の発生予測などに役立てようとする取り組みが、東京大学地震火山史料連携研究機構で進んでいる。文系である歴史学を専門とする研究者たちが、理系である地震学の分野に貢献しようと奮闘中。中心的役割を担う西山昭仁助教は「文理融合研究を進めながら、日本史研究の新しい研究分野も開拓していきたいです」と意気込んでいる。
将来発生するであろう巨大地震・大地震を研究するためには、過去に発生した大小さまざまな地震を知らなければならない。しかし、日本で地震計などの機器による観測が始まったのは明治時代で、全国的な観測体制がある程度整ったのは関東大震災(1923年)以降。それより前のことを知ろうとすると、さまざまな史料を用いた歴史地震研究が不可欠となる。 ただ、これまでの歴史地震研究は地震学者を中心に行われてきたこともあり、歴史学者である西山さんから見ると、信頼性の低い史料や伝承が用いられていたり、史料を誤読・誤用しているケースがあったりして、地震学の分野に混乱を与えることもしばしばあったという。 現在、研究チームは、数ある史料の中でも特に日記史料を調査対象に位置付ける。西山さんは「日記史料には、天気の記録がある、記された場所が特定できる、同じ人が書き続けているため連続して安定した情報が得られる、といった特徴があります。史料としての信頼性は高いです」と説明する。さらに日記史料を対象にした最大の理由は、揺れを感じただけで被害がない有感地震も「度々小地しん有」などと記録されていることだという。
宝永地震(1707年)、安政東海地震・安政南海地震(1854年)など、機器による観測以前の巨大地震については、すでに多くの研究者によって詳しく調べられてきた。しかし、今進めている研究は、これまで注目度が低かった大量の有感地震を複数の日記史料から抽出、有感地震があった年月日や時間帯、有感の場所、大きさなどをデータベース化し、観測機器がない時代の観測データとすることが目的だ。 西山さんは「大きな地震に比べて、揺れを感じただけの有感地震は圧倒的に数が多い。データベースを構築し、うまく活用すれば、現在の中・小地震の震度分布との比較から、過去の中・小地震のカタログを作ることも可能です。さらに、南海トラフ地震のような巨大地震と中・小地震の発生との関係解明も目指していきたい」と話している。 飯田和樹・ライター/ジャーナリスト(自然災害・防災)