ありうるかも「意識が宇宙と一体化」する未来…「SFに描かれた脳」を検証して見えてきた「衝撃の光景」
電子化して不老不死となった脳、意識をデータ化して取り出せる脳、記憶が書き換えられる脳、眠らなくてもよい脳、「心」をもった人工知能。SF作品において「脳」は定番のテーマであり、作家たちはもてる想像力を駆使して、科学技術が進んだ未来の「脳」の姿を描いてきました。 【画像】こちらは「リアル世界の話」…ウイルスから考える、生命と非生命のはざま SF作品に描かれてきた、それらの「脳」は、本当に実現する可能性があるのでしょうか? 脳の覚醒にかかわるオレキシンや、「人工冬眠」を引き起こすニューロンを発見した神経科学者で、大のSFファンでもある著者が、古今の名作に描かれた「SF脳」の実現性を大真面目に検証する『SF脳とリアル脳 どこまで可能か、なぜ不可能なのか』。注目の本書から、興味深いトピックをご紹介します。 *本記事は、『SF脳とリアル脳 どこまで可能か、なぜ不可能なのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
脳の力が未来を想像し、そのヴィジョンを実現してきた
「人間は考える葦(あし)である」 フランスの哲学者ブレーズ・パスカル(1623~1662)の遺稿集『パンセ』に記された言葉である。 葦は風に揺れると、簡単に折れてしまう。パスカルはそれを人間にたとえて、宇宙の広大さや自然の力と比べて、私たちがいかに小さく無力な存在であるかを述べた。しかし、彼が本当に言いたかったのは、私たちには「考える」という能力があることだ。思考力があるからこそ人間は、物理的な弱さを超え、自己の存在意義や宇宙の真理を探究し、文明を築き上げ、生物界で特異な地位を築くことができたのだ。 いま私たちは宇宙にも進出し、かつてないほど生存領域を広げようとしている。そしてAIを生み出し、知的能力を途方もなく拡張する力を手に入れた。しかし生物の進化とは100万年単位のものであり、私たちの身体というハードウェア自体は、火すら使っていなかった時代からほとんど変わっていない。にもかかわらず今日のような社会や文明が生まれたのは、人間が考えるための「脳」という優れたメカニズムをもっているからだ。 脳には「可塑性」という特性があり、大きな変化に適応する能力がある。ヒトの脳はさらに、前頭前野を発達させ、未来を予測して行動選択が未来に与える影響をシミュレートする機能、すなわち「実行機能」を獲得した。私たちがまだ見ぬ未来を想像し、そのヴィジョンを実現してきたのには、脳がもつこれらの力が原動力となってきたのである。