「女脳」「男脳」はなぜ間違っているのか…女性と男性の「性差」についての意外な事実
攻撃性には性差がある
心的回転、言語能力以外で、性差があると言って差し支えないものがいくつかあります。代表的なものが、攻撃性と数学です。数学は本書で詳しく触れることとして、ここでは攻撃性について見ていきましょう。 攻撃性については、男性のほうが強いことが示されています。これについては、あまり説明が必要ないかもしれません。最もわかりやすい例に、犯罪があります。これも本書で詳しく触れますが、ここでも少し犯罪について見てみましょう。 世界中で、ほとんどの犯罪が男性によってなされています。日本国内の例として、令和4年度の犯罪統計資料(警察庁)を見てみましょう。あくまで検挙された人数なので、検挙されていない犯罪のことを考えると多少の違いはあるかもしれませんが、データ上、犯罪の多くは男性によってなされています。 攻撃性が高い犯罪として、殺人、強盗、放火を見てみましょう。それぞれ男性の被疑者の割合を出すと、75%、90%、77%と、いずれも男性が多数を占めていることがわかります。 研究においても、攻撃性は男性が高いことが示されています。攻撃性は、観察や、友達や先生、自分自身による報告が主になりますが、特に身体的な攻撃性は男性のほうが強いようです。一般的に、仲間外れのような、意図的に仲間関係にダメージを与える関係性攻撃は女性のほうが強いと考えられていますが、こちらの性差は非常に小さいようです(※5)。これらの性差を生み出す要因については、本書で見ていきます。
違うところより似ているところのほうがずっと多い
ここまで見てきたように、性差があると思われる行動や能力はほとんどなく、比較的性差があると言えそうなものが、空間認知、言語能力、攻撃性でした。 平均値としては差がなくても、女性よりも男性のほうがばらつきが大きいという考えもあります。この考えによれば、ある課題において、女性と男性では平均値としてはあまり差がないものの、男性にはすごく成績が良い人とすごく成績が良くない人がおり、女性は比較的平均的な人が多いという考えです。結果として、平均値には差がないということになります。 天才は男性に多いという思い込みと整合性があるため、このように考える人もそれなりにいますが、データとしては、この仮説については結果が混在しています。男性のほうがばらつきが少し大きいという証拠はあるものの、あらゆる能力で男性のほうがばらつきが大きいというのは言い過ぎのように思います。 以上のことを考えると、能力や行動という点に関しては、女性と男性ではそれほどの違いはなさそうです。実際に、ほとんどの心理学的特性は女性と男性で類似しており、性差はほとんどないという「類似性仮説」というものも提唱されています(※6)。 これは読んで字のごとくであり、仮説と言えるほどのものかと思う向きもあるかもしれませんが、このようなことを仮説として主張しなければならないほど、私たちの心の奥底には、「性差がある」という思い込みが強いということなのです。 私たちは、あるグループに共通点と差異がある場合に、差異に注目しがちです。たとえば、日本とアメリカの子育てを語る際に、共通していることのほうが圧倒的に多いにもかかわらず、一人寝をさせるかどうかといった異なった部分ばかりに注目してしまいます。この点は注意をしたいところです。 参考文献 ※3 Voyer, D. (2011). Time limits and gender differences on paper-and-pencil tests of mental rotation: A meta-analysis. Psychonomic bulletin & review, 18, 267-277. ※4 Hirnstein, M., Stuebs, J., Moè, A., & Hausmann, M. (2023). Sex/gender differences in verbal fluency and verbal-episodic memory: A meta-analysis. Perspectives on Psychological Science, 18 (1 ), 67-90. ※5 Archer, J. (2004). Sex differences in aggression in real-world settings: A meta-analytic review. Review of general Psychology, 8 (4 ), 291-322. ※6 Hyde, J. S. (2014). Gender similarities and differences. Annual Review of Psychology, 65, 373-398. 次回記事<「女性脳」「男性脳」という考え方が、じつはシンプルに「間違いである」といえるワケ>へ続く。
森口 佑介(京都大学准教授)