ロシアにサプライズ侵攻したウクライナ軍の狙いは何か
突如国境を超えてロシア西部に侵攻を始めたウクライナ軍の戦略意図は何なのか、専門家が解説
ウクライナ軍が8月6日、ロシア西部のクルスク州に侵攻したことにより、ウクライナ政府は対ロシア交渉で有利になる可能性もあるが、制圧した領土を固守するという戦略は大きなリスクをはらんでいる。オーストラリア軍の元将校はそう指摘し、ウクライナが今後とり得る3つの選択肢について解説した。【ブレンダン・コール】 【動画】国境近くを走るウクライナ戦車、ウクライナ戦車をドローンで破壊するロシア兵 ロシア西部のクルスク州とベルゴロド州では8月12日、多数の住民が避難した。ウクライナ軍が越境攻撃を開始して6日が過ぎ、ロシア領内にさらに深く侵入したことが明らかになったためだ。 ウクライナ政府は、この越境作戦について口を閉ざしている。唯一の例外はボロディミル・ゼレンスキー大統領で、8月10日にこの動きに触れ、「戦線を、侵略者の領土内部へと推し進めている」と述べた。 ロシア領に侵攻したウクライナ軍はこれから何をするつもりか、憶測が飛び交っている。オーストラリア軍を退役した元将校のミック・ライアンは、ひとつの選択肢として、ウクライナが来るべき和平交渉で、制圧したロシア領を取引材料にすること。 【敵地に突き出た陣地は弱い】 しかしライアンは、それはウクライナにとって「最もリスクの高い選択肢」になるという。なぜなら、敵の領土に突き出た突角陣地があると、「半人前のロシア軍司令官でもやすやすとつぶすことができる」からだ。 「このシナリオでは、多数の兵士を失う確率が高く、戦略的・政治的に不利になる」。ライアンは、8月12日付けで英字紙キーウ・ポストに掲載された論説でそう述べた。もとは、コンテンツ配信プラットフォーム「サブスタック」で発表されたものだ。 「ウクライナは、大隊と旅団だけでなく、大砲や電子戦(EW)、防空手段など、失っては困るものを失う可能性がある」 ライアンは2つ目の選択肢として、制圧した領地から部分的に撤退し、防衛がより容易な場所に移動することを挙げている。そうすれば、ロシア軍が支配地域を広げているウクライナ南東部ドンバス地方の防衛や、今後の対ロシア越境攻撃など、ほかの場所や作戦に兵力を再配置できるという。 これなら、戦略的な攻撃で得られるメリットを最大化すると同時に、戦闘部隊を失うリスクを低減できる、という。 しかしゼレンスキーには、3つ目の選択肢もある。国境まで全面撤退して、これから必要となるであろう経験豊富な戦闘部隊を温存しつつ、ロシア領内侵攻による政治的・戦略的なメリットを最大化するというものだ。