「誤報が8割」でも異議はなしーー児童を守る品川区の防犯ケータイ20年 #こどもをまもる
大事なのは誤報も許容すること
スタート当初はオリジナルのシステムを一から作り上げたため、多くの予算がかかったという見守りシステムだが、現在では通信事業者KDDIが販売しているキッズ向けケータイをベースにするなど、コスト削減を図っている。 「これまでまもるっちの予算に関して議会での異議は、私が知っている限りは聞いたことはないですね」(森田課長) 昨年度、まもるっちに割かれた予算は年間1億6000万円ほど。それらは人件費や、システム維持費などに使われている。課題があるとしたら「誤報がちょっと多いこと」と森田課長は言うが、たとえ8割以上が誤報であっても、ある意味無事な知らせともいえる。オペレーターもどんな通報であっても、最後まで穏やかな応対を変えることはない。 「連絡をしたら怒られた、子どもにそんな印象を植え付けたくない」と言うように、いざというときに通報をためらうことがあっては本末転倒だ。
まもるっちはいじめ相談の窓口にも
品川区では「83(ハチサン)運動」と呼ばれる独自の見守りシステムも効力を発揮している。「子どもの登下校時である、朝8時と午後3時にお家の外にいよう」という運動が始まりで、現在では時間に関係なく「地域の目で子どもを守ろう」という取り組みに発展している。個々は小さい力かもしれないが、住民が「クラウド」として力を合わせて、大きな力で児童を見守ってきたともいえる。 「品川区というのは最先端のオフィスもあれば住宅や下町らしい街並みが混在するのがいいところなんです。まもるっちのような技術ツールと、83運動のようなアナログなものを掛け合わせているのも品川区らしいといえるかもしれませんね」(森澤区長) 幼稚園や保育園の頃は、送迎やお迎えが当たり前。だが小学校に入ると、子ども一人での行き帰りが発生する。親は子どもが寄り道をして帰りが遅いだけで、大きな不安を感じる。親はもちろん、子どもも最初は不安に違いない。 ただ、知らないことや新しい友達と触れ合いながら、子どもは成長していく。幼稚園から小学校になったときに親が感じる不安は、まもるっちが少なからず解消してくれる。困ったときはオペレーターを「保護者」だと思って頼ってもいいと子どもに伝えてもいいだろう。 5年前には「HEARTS(ハーツ)」と呼ばれる区立学校のいじめなどに対応する専用窓口に、まもるっちから直接電話できるようになった。端末からこのホットラインにかければ、クラスメートや時には親にも知られることなく、大人に相談ができる。見守りシステムは日々進化を続けている。 「まもるっちは子どもの成長と安全をそっと見守っているんです」(森田課長)
─── キンマサタカ 1977年生まれ。大学卒業後にサブカル系出版社に入社し、2015年に編集者として独立。多くの書籍を手がける。ライター・写真家としても活躍。