トヨタ自動車・高橋優が今季限りで現役引退 3年連続日本一に貢献した「Yu―Voice」への思いとは
トヨタ自動車の高橋優内野手(28)が今季限りで現役を引退した。入社4年目の22年から試合前に行う声出しを担当。さまざまなアイディアをこらし、ナインの一体感を高める演出は「Yu―Voice」として人気を博した。 「みんな緊張したと思いますが、一生懸命やりきってくれてうれしかったです」 優勝した今秋の日本選手権では五十嵐寛人、三塚武蔵、熊田任洋、今泉颯太を引き連れ、5人組の「Yu―Voicers」を結成。自身も含め5人組としたのは5試合を勝ち抜き、2大会ぶり7度目の日本一になることを逆算したからだ。 2019年、トヨタ自動車に入社した。神戸国際大付(兵庫)の3年夏の甲子園に出場。亜大では3年秋のリーグ戦から一塁兼外野手としてスタメンに定着した。入社3年目の日本選手権では「1番・左翼」として2試合に出場。だが、翌年から徐々に出場機会が減り、悶々とする日々の中でたどり着いたのが、試合前の声出しだった。 「ベンチにいる中で何かチームに貢献できることはないか?と考えた時に、声が武器になるかも、と。そういう役割を僕だったらできるかもしれないと思いました」 自ら望んだポジションだったとはいえ、スタートした当初は人知れず悩み、苦しんだ。 「俺、一体、何してるんやろ?って。正直、しばらくの間、葛藤はありました」 睡眠時間を削り、必死に演出を考える。練習を二の次にしてまでみんなを笑わせることは、果たして現役の野球選手に必要なことなのだろうか。辞めたいと思ったことは一度や二度ではない。何度も心が折れそうになった。そんな高橋を奮い立たせてくれたのが、他ならぬ仲間の存在だったという。 「やり始めて最初の都市対抗でベスト4に進出してくれて。この仲間で日本一を狙える、てっぺんを取れると思った時“チームのために少しでも力になりたい”と心の底から思えるようになったんです。たとえ、グラウンドに立たなかったとしても、みんなと日本一を目指して戦うことはできる。僕の試合前の声出しをチームの武器にしてやろうと決意しました」 もう一つ、心に決めたことがあった。今まで以上に選手として高みを目指し、日々、ベストを尽くすということだ。高橋は言う。 「声出しをとことん極めるだけではなく、選手として一生懸命努力することを疎かにしてはいけないなと。練習をいい加減にしているヤツが声出しをしたところで、仲間に響くものは少ない。選手としても変わらずやり続けることを自らに課しました」 言葉どおり、入社5年目の23年からはレベルスイングに近かった従来のスイングを捨て、日本人野手として初めて3Aを経験した根鈴雄次氏が標榜(ひょうぼう)する縦振りに軌道を変えた。5種類に及ぶ打撃ドリルを行い、バットも計5種類を用意。全体練習の開始前や終了後の自主トレで、とことん体に染みこませた。成果は徐々に現れ、今年のJABA九州大会のビッグ開発BC戦では右越えソロ。代走、守備要員だったのが、左の代打として重宝されるまで打力を高めた。 「自分の力で勝ち取ったのも2~3割あるかもしれませんが、大半は監督、スタッフの方々のおかげ。こういう選手を打席に送り出してくださったことに感謝しています」 今秋の日本選手権では準々決勝・西部ガス戦の9回に代打で起用された。結果は右飛。「寂しさもあります」と語った一方で、現役最後の打席を京セラドームで終えることができた。 「6年間は得るものがすごく多かった。野球選手としての悔しさ、寂しさもありましたが、それ以上に人間として成長させていただきました。誰かのために行動することの大切さを知ることもできた。声出しをやった僕が凄いのでもなんでもなく、僕がやりやすい環境をつくってくださった仲間が凄い。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」 来季からは広報担当としてチームを支える。「社会人野球の素晴らしさを一人でも多くの人に知っていただきたい」。活躍の場は無限の広がりを見せていく。