わら細工作家・藤井桃子さん、黄金色の温もりを綯う「WARAジュエリー」
一本のわらを手に取り、先端から根元まで目を凝らし、わずかな染みも見逃さない。選び抜いた数本を木づちでたたくと、硬い繊維がほぐれ、一本一本に軽やかさが宿っていく。 【動画】数センチ大の装飾品から太いしめ縄まで、丹念に編み込む藤井さん
節をたどるようにして指をはわせ、硬軟を感じ取る姿はわらと対話しているかのようだ。わら細工作家・藤井桃子は「出来栄えに直結するので、一番時間をかけるんですよ」と話す。
「わら打ち」を終えると、数本まとめて両手で挟み、手のひらで転がすようにしてよりをかけていく。みるみるうちに絡み合い、編み目が等間隔に整ったわら縄が出来上がった。
この「縄綯(なわな)い」の絶妙な力加減が、広く評価を受ける造形美の土台だ。手がけるのは、現代的で自然の 温ぬく もりも兼ね備えた「WARAジュエリー」と呼ぶ数センチ大の装飾品から、長さ5メートル近くのしめ縄まで。太い縄は綯う際に一瞬でも手の力を緩めてしまえば、ほどけてしまう。究極の完成美を求め「ひと綯いひと綯いに心を込める」。
古里の技昇華
京都市中心部から北に車で約1時間。四方に山が迫る左京区の花脊(はなせ)で生まれ育った。わらは草履や鍋敷き、特産の山椒(さんしょ)を摘み入れる籠に姿を変え、山里の暮らしに根付いていた。
こうした環境で豊かな感性を育み、幼い頃から絵画に傾注。市立銅駝美術工芸高(現・市立美術工芸高)、市立芸術大と芸術家への道を歩んだ。大学では新たな表現を求め、木版画に挑むも挫折。活路を見いだしたのが、古里で連綿と受け継がれてきたわら細工だった。
「アクセサリーにすればきっと面白い。これまでにない世界観が生まれるはず」。古老から教わった技術を芸術に昇華させようと、2013年、実家に併設する形で工房「花背WARA」を構えた。花脊を拠点に独創的な作品を発信することが、古里のPRにもつながると考えた。
わらも花脊の田で稲から育て、調達するのが流儀だ。「体にこたえる作業だが、これも創作。こだわらないと美しい作品はできない」との信念からだ。