「未完の始まり:未来のヴンダーカンマー」(豊田市美術館)レポート。5人の現代アーティストの作品からミュージアムの未来を想像する
田村友一郎
煌めく白い砂のバンカーが広がり、そこにはゴルフクラブと『ライ麦畑でつかまえて』の本が落ちている。その上には、iPhoneが連結されたUFOが光を瞬かせながら浮かんでいる。 田村友一郎(1977~)の新作インスタレーション《TiOS》(2024)は、骨とチタンを中心に、iPhone、ルーシーと名付けられた猿人の化石人骨、二足歩行、猿真似、「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」、ジョン・レノン、寝椅子、巨人、人工自然であるゴルフ場、巨人、UFO……と様々なイメージが巨大な蜘蛛の巣のように結びつき広がるインスタレーション。 人間が金属の銅を使い始めたのは約6000年以上前、鉄は約4000年前だが、それに比べてチタンと人間の関わりはずっと短い。18世紀末に発見され、鉱石から取り出す方法が見つかったのが1910年。大量に手に入れることが可能になってからはまだ100年も経っていない。しかしいまではチタンは私たちの生活に欠かせないものになり、さらに身体を補完し、その一部にもなっている。たとえばインプラントなど人工歯に使われているのがチタンだ。チタンは骨と拒否反応を起こすことなく、完全に結合する性質を持っている。また「iPhone 15 Pro」シリーズでもチタンが採用され、いまでは人間の脳と手の延長にあるこの道具にもチタンが含まれるようになってきた。また宇宙船や戦闘機にも欠かせない素材である。 田村は遠い未来に宇宙人がやってきて、チタン製のゴルフクラブを巨人の骨の化石だと勘違いするのではないかと夢想する(チタンは地下に眠る巨人タイタンから命名されている)。そして直立歩行を始めた最初期の猿人ルーシーの骨をチタンで再現し、寝椅子の上に横たえさせる。猿人ルーシーは、発見者がビートルズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」から命名した。そこから本展に設置された宇宙船のような形状に包まれた映像には、AIによって蘇ったジョン・レノンが、こうしたチタンと人類に関する寓意を語る。二足歩行をし、道具を使うようになった人類が、やがてこの鉱物と一体化する姿を「想像してみて」と囁く。 この街がトヨタを擁する自動車産業の本拠地であることを思い出せば、人類史における「移動」の重要性、そして道具とテクノロジーの進歩が変える人間の知覚や身体性といったものにも考えが誘われる。人類史を遡り、遠い未来を覗く、壮大な時間が流れる作品だ。