東大生の家庭の半数超が年収950万円以上という「出自の偏り」
<両親が管理職の割合も一般家庭より高く、東京・関東圏出身は5割を超える>
2023年春の18歳人口ベースの大学進学率は57.7%。同世代の6割近くが大学に進学する。1955(昭和30)年では7.9%でしかなかったこととくらべると、大幅な増加だ。 【グラフ】東大生の家庭の年収分布(一般家庭との比較) アメリカの社会学者マーチン・トロウは、進学率に依拠して高等教育の発展段階を区分している。進学率15%未満はエリート段階(進学は少数者の特権)、進学率15~49%はマス段階(進学は権利)、進学率が50%を超えるとユニバーサル段階で、進学は万人にとっての義務のようなものになる。今の日本は、まぎれもなく最後のユニバーサル段階に入っている。 このステージでは、高い社会的地位に就くためには大学の中でも入試難易度の高い有力大学に入ることが重要となる。教育が「生まれ」とは異なる公正な社会移動の手段として機能しているかを見るには、有力大学の学生の家庭背景を観察する必要がある。 日本の大学は伝統や威信によって階層化されているが、その頂点に位置するのは東京大学だ。同大学の『学生生活実態調査報告書』に、学部学生の家庭の年収分布が出ている。<図1>は、それを帯グラフにしたものだ。 <図1> 東大生の家庭の年収分布は、大学生の子がいる年代の家庭(一般群)とはかなり違っている。年収950万円以上の割合を見ると、一般群では25.9%なのに対し、東大生の家庭では57.3%もいる。 東大生の家庭の年収は、普通の家庭とくらべて明らかに高い。東大は国立大学なので、私立大学よりも学費は安いが、入学までの間に多額の教育投資を必要とするのが一般的だ。幼少期からの習い事に加え、早い段階から私立校に通わせる家庭も少なくない。 上記は年収のデータだが、親の職業、出身高校、出身地域についても、一般群と比較することができる。<表1>は、結果を整理したものだ。 <表1> 父親の職業を見ると、39.9%が管理職で、大学生の子がいる年代の父親全体ではわずか3.6%なのとは大きく違っている。父が管理職である家庭から東大生が出る確率は、通常の期待値の11.2倍ということになる。母の職業を見ても、専門・技術職や管理職の割合が高い。 出身高校を見ると54.3%が国・私立で、これも高校生全体の組成とは大きく異なっている。出身地域は、東京や関東の割合が一般群より高い。女子に限ると東京出身者の割合は3割を超え、地域による入学チャンスの閉鎖性がもっと大きくなる。 こう見ると東大生の出自の偏りは明らかで、公正な能力主義が機能しているのか、と言う疑問も出てくる。当人たちは「自分が頑張った結果だ」と主張するのだろうが、家庭の経済資本や文化資本の影響は否めない。 現代の学校は、3つの社会的機能を果たしている。子どもを社会的存在に仕立てる「社会化機能」、社会の適所に適材を配置する「選抜・配分機能」、選抜の結果を人々に納得させる「正当化機能」だ。社会的地位が「生まれ」で決まる場合、人々の不満は大きくなるが、学校での(フェアな)競争の結果であれば受け入れられやすい。 しかしながら、学校での競争は100%公正なものではない。有力大学の学生の家庭環境から推測されるように、能力主義の衣をまとった属性主義が作用している。それを正当化するのは、既存の格差の維持・再生産に寄与することを意味する。 今回は東大生で見たが、政治家や各業界の指導者など、社会の上層部の人たちの「出自」はきちんと観察されなければならない。法が定める理念の虚構(機能不全)を見抜き、活気のある健全な社会を作るためだ。 <資料:『東大学生生活実態調査』(2021年度)>
舞田敏彦(教育社会学者)