「夏の甲子園」中止の経済的損失約672億円の試算から透けて見えるもう一つの大会中止検討理由とは?
だが、大会の強行開催には、かなりの社会的責任がともなう。しかも、4億円もの赤字を背負ってまで大会開催に踏み切ることは現実の経済活動としても難しい。 「高校野球は教育の一環。利益を目的とした興行ではない」との前提があったとしても、国民的行事として大会は巨大化しており、収支の成り立たない”慈善事業”では行えない規模となっている。新型コロナの経済的影響が、各新聞社の経営を直撃しているという現状もあり、「やれば赤字」の事業を強行することは、その経営責任を問われることにもなりかねない。 せめて放映権料で、チケット収入がない部分が補充できれば無観客開催も可能になるが、放映権料は取れない。いや取らない。1927年のNHKラジオでの実況中継スタート時に、高野連は「人気拡大と野球の普及」を求め、NHKには人気コンテンツの確保という目的があり互いに”ウイン、ウイン”の関係で「放映権料ゼロ」で中継が始まったという歴史的な経緯がある。その後も、大会主催者の高野連、朝日新聞社は「甲子園大会は利益を目的にしない教育の一環」の理念を崩さず、放映権料を要求していないため、スポーツビジネスとしての収支構造は、歪になったままで、結果的にこういう非常時に「無観客開催では収支が成り立たない」という皮肉な結末を迎えることになった。 宮本教授は、さらに前述した大会中止によって失われる一次波及効果、二次波及効果について、総務省内閣府 が 2016 年に作成した最新の「全国産業連関表」を用いて計算し、直接効果と一次波及効果を 約 510 億 5574 万円 、二次波及効果を 約 161 億 8841 万円 とし「甲子園大会中止」の経済的損失を計 約 672 億 4415 万円と試算した。 宮本教授は、こんなコメントで今回の試算結果を総括している。 「新型コロナウイルスの影響で、春の選抜高等学校野球大会に次いで、夏の第 102 回全国高等 学校野球選手権大会も中止となれば、高校球児にとっては耐え難い決定である。また高校野球 関係者やファンにとっても非常に残念なことであると言える。 本報告書では予選の地方大会の中止、無観客開催などの可能性も含めて第102 回全国高等学校 野球選手権大会の中止で失われる経済効果を推計した。推計の結果、失われる経済効果は約 672 億 4415 万円となった。これはすべてのアマチュアスポーツ大会のなかで最高額の損失で あると推定される。 しかし、この夏の甲子園を目指してきた高校球児にとっては、大会の中止はこれらの金額を はるかに上回る生涯の希望の損失となるであろう」 飛んでいく札束よりも大きい球児の希望の損失…重たいメッセージである。