「夏の甲子園」中止の経済的損失約672億円の試算から透けて見えるもう一つの大会中止検討理由とは?
日本高校野球連盟は20日、大会運営委員会を開き、8月10日から甲子園球場で開催予定だった第102回全国高等学校野球選手権大会の開催可否についての協議を行う。新型コロナウイルスの感染拡大により中止が濃厚だが、関西大学の宮本勝浩名誉教授(75)は夏の甲子園が中止になった場合の経済的損失を試算、約672億4415万円となることを発表した。実は、この経済的損失の裏に夏の甲子園中止を避けられない、もうひとつの理由が見え隠れしている。
無観客開催なら4億円規模の赤字
夏の甲子園の中止が検討されている理由には、大人数となる選手、関係者の集団移動、宿泊による感染リスクなど、健康管理が担保できないという問題に加え、緊急事態宣言で、多くの学校が休校となった影響で、夏休みが短縮される可能性があり、その場合、大会日程に影響を及ぼす可能性が出てきたことがある。日本学生野球憲章には、「学生野球は、教育の一環」と謳われているため、その理念に逆行しての大会の開催は難しい。 さらに同時期に開催される高校総体(インターハイ)の中止が早々と決定され、高野連は、高校総体を主催する高体連に属してはいないが、全日本大学野球選手権も中止となり「夏の甲子園だけは特別」というわけにはいかなくなった。 だが、今回、宮本教授が算出した「夏の甲子園」が中止になった場合の経済的損失を見ると、大会主催者の高野連、朝日新聞社が中止を検討したもう一つの理由が透けて見える。 つまり開催するにしても、直前まで開催が検討されていたセンバツ同様、無観客開催しか手段がなく、その場合、収入がほぼゼロとなり、大会を運営する高野連と朝日新聞社が約4億円規模の大きな赤字を被ることになるのだ。 宮本教授は、経済効果(損失)を直接効果、一次波及効果、二次波及効果の3つに分け、それらを合計し推計した。宮本教授によると、直接効果とは、チケット代、交通、宿泊費など、自治体、企業、消費者がイベントに関して直接的に消費、投資する金額であり、一次波及効果とは直接効果の消費、投資に よる原材料の売上増加額のことである。 「例えば甲子園球場に観戦に来たファンがカレーライスを食べたり、高校野球のグッズを買うとレストランのカレーライスの売り上げや高校野球のグッズの売り上げは直接効果であるが、カレーライスの材料である米、肉、玉ねぎ、人参などの売り上げ、さらに高校野球のグッズを作っている工場の企業の売り上げも増加する。それらのカレーライスの原材料の売り上げ増加額や高校野球のグッズ工場の売り上げ増加額を一次波及効果と呼ぶ。また二次波及効果とは、直接効果、一次波及効果に関係した企業、店舗などの売り上げが増加すると、それらの企業、店舗の経営者、従業員の所得、配当などが増加。その所得、配当などの増加額のかなりの部分が消費に 向けられる。その消費増加額のことを二次波及効果と呼ぶ」(宮本教授)そうである。