3度のがんと共に生きてきた20年間…今は「有病長寿」の時代=韓国(1)
[ファンボ・ヨンの『超高齢社会の質問』」 いつまで元気に暮らせるか 長生きでも「病弱な老後」への恐怖広がる 「自分は健康」高齢者の27%のみ
ソウルのある総合病院ホスピス病棟のパク・エスンさん(仮名・77)は緩和ケアを受けながら人生の最後の期間を過ごしている。パクさんに病の苦しみが初めて訪れたのは50代半ばの2001年のことだった。当初、医師に胃がんステージ1と言われたが、いざ手術を受けてみると、他の部位に転移した状態だった。青少年相談教師などとして働いてきたパクさんは、大家族の嫁としてつらい家事までしながら、自分の体に気を付ける暇がなかった。抗がん・放射線治療で1年を過ごした後、無事5年が過ぎて完治判定を受けた。 「がんを患っている間、日常が崩れることが最も耐え難かった」というパクさんは、2014年に再び病院を訪れることになった。今度は甲状腺がんだった。両親は老衰で亡くなったと思っていたが、がんの家族歴があることも知らなかった。がんの遺伝因子を持っていると言われ、その場に座り込んでしまった。かろうじて治療を終えたが、2018年に再び卵巣がんの診断を受けた。腹水でお腹が膨らみ、体力が落ちて病院を訪れた時だ。数カ月前、パクさんは治療を中止することにした。抗がん治療を続けられる体ではなかった。それでホスピス病棟で緩和ケアだけを受けている。パクさんは排液管が差し込まれた状態で、細い声で会話を続けた。「自分が健康だと最後に思ったのがいつなのかも思い出せない」。パクさんにとってこの20年間は有病期間そのものだった。老後をどのように過ごすか計画を立てる暇もなく、いつの間にか人生の果てまで来ている。 過去、感染性疾患による死亡が多かった時代には、何歳まで生きるかが最大の関心事だった。ところが、主な死亡原因が慢性疾患に変わってからは、どのような老後を迎えるかがはるかに重要になった。慢性疾患に苦しみ、「病弱な老後」を送らなければならない「有病長寿」に対する恐怖がひろがったためだ。実際、60代以上の高齢者の主な死亡原因は、がんと心臓・脳血管・肝臓疾患、糖尿病などだ。パクさんの闘病生活からも分かるように、がんまでもが慢性疾患になった時代だ。がんと診断された後、5年間以上生存する確率(72.1%・2017~2021年)が高くなった影響だ。 このように「健康な老化」に関心が集まったことで、期待寿命に劣らず注目されているのが健康寿命だ。2022年の出生児基準の韓国人の期待寿命は82.7歳だが、健康寿命はこれを大きく下回る65.8歳。16.9年は薬餌に親しみ、入院を繰り返す日々を送らなければならないという意味だ。有病長寿は急速な高齢者医療費の増加だけでなく、老年期の生活の質の低下という側面で、放置できない超高齢社会の課題だ。 ■期待寿命に追いつかない健康寿命 期待寿命が数十年間、毎年0.2~0.4歳ずつ長くなったのに比べ、健康寿命は足踏み状態だった。まず、期待寿命は主に社会的・経済的生活水準と健康危険要因、医療へのアクセシビリティなどの影響を受ける。1970年までは62.3歳にとどまっていた韓国の期待寿命も、このような要因によって急上昇曲線を描いてきた。1987年(70.1歳)と2009年(80.0歳)にそれぞれ70歳と80歳の大台に乗った。そのピークは2021年(83.6歳)だった。経済協力開発機構(OECD)加盟国の比較でも最上位グループだ。日本とスイスに次いで3番目(2021年基準)に高い。この20年間、韓国人男性と女性高齢者の期待余命はそれぞれ3.9年、4.2年増えたが、OECD加盟国の平均は2.0年と1.8年にとどまる。 翌年の2022年、期待寿命は統計庁の生命表が作成されてから52年ぶりに初めて下がった。2017~2018年の水準に戻ったのだ。コロナ禍の影響というのが統計庁の説明だった。2018年にも期待寿命が史上初めて前年水準で止まっている。当時は記録的な寒波が原因とされた。期待寿命の増加速度に影響を及ぼす要因が多くなったが、増加傾向が止まったとみるにはまだ早い。 性別による期待寿命の差(男79.9歳、女85.6歳)が特に大きいことも注目に値する。ソウル大学保健大学院のチョ・ビョンヒ名誉教授は「社会的に男女が平等であるほど寿命の差が小さくなる傾向がある」と分析する。複合的要因によるものだが、家父長制と性役割の固定観念などが影響を及ぼしたとみられている。北欧諸国の場合、その差は3歳程度だ。 健康寿命はどのように測定するのだろうか。統計庁は最近2週間で病気や事故で病気になったことがあるか、何日間病気を患ったのかを調べて有病率と有病期間を算出する。期待寿命からこのような有病期間を引いたのが健康寿命だ。2012年以後、2年周期で出てくるが、大幅な変動なしに65歳前後の水準に留まっている。そのため、期待寿命と健康寿命間の格差が2012年15.2年から2022年16.9年にさらに広がったのだ。 2年前に50代に入ったキム・ヨンチョルさん(仮名・52)は、これからどれほど健康な状態で暮らせるだろうか。キムさんは同年代の男性の平均値からして、81.6歳まで生きるものと期待される。健康寿命は69.1歳で終わるとみられるが、さらに短縮される可能性もある。キムさんはボディマス指数(BMI)が25以上で肥満と診断されており、2年前からコレステロール値が高く、降下剤を服用している。空腹時の血糖値も高い水準であるため、糖尿病直前の段階であり、週2回以上酒を飲む高危険飲酒群(1回平均7杯以上)に属する。改善が見られなければ、年を取るにつれ慢性疾患で治療を受けることが多くなるだろう。 同年代の女性の事情はさらに良くない。期待寿命は86.8歳だが、健康寿命は70.1歳に過ぎない。男性よりずっと長生きするにもかかわらず、健康寿命はあまり変わらない。2022年基準で50歳の男女の残りの生涯のうち、健康な期間は男性60.6%、女性54.5%にとどまる。 (2に続く) ファンボ・ヨン論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )