アパレルブランド「REINA IBUKA」が紡ぐ、秩父の伝統工芸
埼玉県の北西部に広がる秩父地域は、美しい自然に囲まれたエリアだ。三峯神社や秩父神社、羊山公園の芝桜、長瀞の岩畳など観光スポットも魅力的だが、それ以外にも特に注目すべきは伝統的工芸品だ。 そんな秩父で、パリでデザイナーとしての経験を積んだ井深麗奈さんが、秩父銘仙や秩父太織を使用したアパレルブランド「REINA IBUKA」を展開している。パリで得た経験を生かし、秩父シルクの素晴らしさを発信している。 今回は井深さんのストーリーを通じて見えてくる、秩父の魅力をお伝えしたい。
秩父シルクとソフィ アレット
ーパリでのファッションデザイナーとしての経験は、井深さんのキャリアにどのように影響したのでしょうか? 高校卒業後、文化服装学院に進学し、卒業後は都内のランジェリー会社に就職しました。そこでランジェリーに魅了され、レースやランジェリーの本場で勉強したいと思い渡仏しました。 パリでは、夢だったランジェリーブランドを立ち上げ、アンティークのレースやカーテンなど、蚤の市の古く美しいものをアップサイクルして作った作品からスタートしました。 そうした活動の中で、本場の本物のレースを扱いたいと思うようになり、パリのレース会社であるフランスの老舗レースメーカー 「Sophie Hallette(ソフィ アレット)」でシーズン落ちのレースを購入させてもらい使えるようになりました。感激と刺激を受けながら制作していました。 その後パリのさまざまな文化に魅了、刺激され、ランジェリーに加え洋服も展開するようになりました。
ーその後パリから帰国し、地元である秩父でブランドを再スタートされたんですよね。 一度パリでブランドを立ち上げましたが、帰国後は再びブランドを始めるとは思っていませんでした。ものが溢れている現代に、新たにものを作り出してよいのか疑問に思っていたので。 でもそんな時に、地元の伝統工芸である「秩父銘仙」や「秩父太織(ちちぶふとり)」の美しさに触れ職人さんの想い、衰退の現状を知ったのです。そこにやる意味を見い出し、再びブランドを立ち上げることにしました。 秩父銘仙と秩父太織を見て、手で触れ、美しさに魅了されました。それはパリのソフィ アレットのショールームで感じた感覚と似ていました。単純に「形にしたい!」「フランスレースと合わせたい」という思いが湧いてきました。 伝統工芸の職人ではないので、私の活動は間接的で微力ですが、この秩父の歴史ある絹文化に携わらせていただき、働きかけることで何かしらにつながると思っています。 ー秩父銘仙や秩父太織はどのような織物なのでしょうか。 REINA IBUKAでは、秩父の伝統的絹織物でもある現代の秩父太織、秩父銘仙を使用しています。軽く着心地がよく暖かく涼しいのは両者とも同じですが、それぞれ異なる特徴も持つ美しい絹織物です。 秩父は山に囲まれた地形で稲作に向かないことからかつて養蚕業が盛んでした。そのなかで規格外の繭を使い野良着として作られていたのが「秩父太織」です。 100%秩父産繭から糸作り、織りまで一貫して手作業で行われており、無撚糸だからこそ生み出される絹本来の肌触りと草木染めも特徴です。丁寧に手織り機で織っているので空気が多く含まれ、使うごとに糸と糸が合わさっていきより滑らかになっていくシルクです。