今年も相次ぐクマの出没 変わりつつある人間社会とクマの習性
「ドングリ不足」以外にも出没の背景
クマが人里近くや時には町の中にまで“進出”する背景についてWWFジャパンの那須嘉明さん(優先種担当)は、「秋にドングリなどの山の実りが少ないとクマは行動範囲を広げて人里に出てくる」としながらも、「それは一つの理由であって、ほかの背景もありそう」と言います。 那須さんが注目しているのは、中山間地が高齢化などで過疎化し、田畑が草地に変わったりする環境の変化です。「人が住んでいて農業などに従事し、クマなどの野生動物を遠ざける場所にもなっていた中山間地が、その役割を失うことでクマが直接人家の近くにまで入り込んでくるようになったのではないか」と指摘します。 さらに、かつて里山で炭焼き用に繰り返し利用したコナラやクヌギなどドングリがなる木に人間の手が入らなくなり、今は人里に近いクマの餌場となっている可能性がある――とも。 北アルプスや里山の動植物に詳しい長野県塩尻市の元新聞社カメラマンで自然写真家の丸山祥司さん(69)は、「クマが人里に近づいて、人間に慣れて怖がらなくなったような気もする。夕暮れにスピーカーから町に流れる時報の音楽に合わせてクマが行動しているふしもある。人間の営みの世界に入りつつあるのかもしれない。そうすると、ラジオや鈴を鳴らして歩けばクマは逃げるというこれまでの考え方でいいのかどうか」と、ややショッキングな懸念を語ります。
クマに出合ってしまったら
クマの被害への恐れから、クマの捕殺を求める住民も少なくないのですが、クマの数が減っている地域では法律に基づき保護管理をしています。絶滅のおそれのある貴重な動物として、鳥獣保護法でツキノワグマの狩猟による捕獲が禁止されている島根、広島、山口県にまたがる地域は長野県などとはまったく事情が異なります。その一方で長野県のようなクマ出没県でも、軽井沢町ではクマに「お仕置き」をして放し、人間社会に近づかないようにする試みが行われています。クマの出没は人的被害の防止、動物保護のあり方、共生の試みの行方などさまざまな課題を人間社会に提示しているといえます。