中小企業に未来はないのか?『ハゲタカ』真山仁氏が語る中小企業再生のカギ
THE PAGE
「日本の中小企業にコンピタンス(競争力)はない。企業を立ち上げた人が死んだら、企業もつぶれる」。経済小説『ハゲタカ外伝 スパイラル』をこの7月に上梓した小説家・真山仁氏はそう警鐘を鳴らす。このまま日本のモノづくりは沈んで行くのだろうか? 小説を通じて真山氏が描く、中小企業再生に向けた処方箋とは?(ダイヤモンド・オンライン×THE PAGE共同企画)
職人芸をみがけばモノづくりができると思う勘違い
これまでの『ハゲタカ』シリーズでは、真山氏はグローバル企業のM&Aをリアルに描いてきた。今回は一転、中小企業の再生をテーマに設定した。 日本にある421万の企業のうち中小企業が占める割合は99.7%。「企業再生しなければならない例は中小企業の方が圧倒的に多い。無数にある零細企業の問題を見過ごしてはいけないという思いがあった」という真山氏は独自の視点から問題を提起する。 『ハゲタカ外伝 スパイラル』の舞台となるのは、中小企業が立ち並ぶ大阪府東大阪市の町工場「マジテック」。天才発明家で創業者の藤村登喜男が亡くなったあと、同社が持つ優れた技術や特許をハゲタカファンドが狙う。後継者のいない中小企業の生き残りを賭けた苦闘を描く。 真山氏は、「政府もみんなも、職人芸をみがけばモノづくりができると思っている。技術は大事だが、先端の技術を作る人だけでなく、プロデューサーが必要だ」と強調する。日本に足りていないのは、個々の中小企業が有する技術や特許など、ばらばらになったピースを組み合わせてまったく別のものを作り出すための、高いところからの視点だと言う。
主人公・芝野健夫に語らせたプロデューサー像
真山氏が例に挙げるのは、アップル社の共同設立者スティーブ・ジョブズだ。彼の成功の本質は、その発明にあったのではなく、一見ばらばらの特許や技術を一つにまとめ上げて一つの製品を作り出すプロデューサーとしての力にあったとする。しかし、日本ではそうしたプロデューサーが生まれているとは言いがたい。 小説のなかでは、零細企業の存続や創業者の思いといったウェットな要素は一向に意に介せず、まさかと思うような外資が「マジテック」の特許に目をつけ、食指を動かす。日本人に特許や中小企業が持つ優れた技術力を活かすことができなれければ、外資がそれに取って代わるだけだ……。 現実の世界でも、多くの中小企業や零細企業は、たとえば工業団地のなかにあって共存共栄のなかにいるが、技術に関しては隣の企業が何を持っているかを知らない。そこに、自治体の行政マンが入り込み、互いのコミュニケーションを図ろうとする。言ってみれば、プロデューサー的な役割なのだが、「それだけではアレンジャーに過ぎない」と真山氏。「出口の製品をどうするか、開発費をどう集めるかという視点が欠けている」と指摘する。 真山氏は、そのプロデューサー像を主人公・芝野健夫に投影させる。芝野は、大企業や中堅の再生には成功しているが、零細企業は再生させたことがない。彼は自ら営業をかけ、資金を集め、企業を再生させ、さらに地域をまとめようと奔走する。「芝野と私が一緒に悩んだ結果、中小企業の再生に向けて答えがこの本にあらわれている」。