NTT法を巡る議論で報告書案、携帯各社トップらがコメント
NTTのあり方を巡る総務省の有識者会合で29日、NTTと携帯電話3社のヒアリングが行われ会合後、NTT、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのトップらが報道陣の取材にコメントした。 【この記事に関する別の画像を見る】 ■ NTT島田社長がコメント ――ユニバーサルサービスにおいてモバイル網を軸としたかたちは否定された。NTTの思惑どおりになっていないのではないか? 島田氏 随分進捗したと思っています。2035年くらいに(メタル、銅線を用いた従来の)固定電話の設備の維持に限界が来ますが、それまでに代替措置をどうするかが重要です。モバイルや光をその代替として複数の事業者でカバーし、どの事業者もやらないところはNTT東西が、ということになりますが従来よりもコスト効率が良い。ユニバーサルサービスですから、最終的には国民の負担ですので、現状程度の負担となる代替手段の整理がついたということは良い結論かなと思います。 ――今回の報告書はどの程度、NTTの主張が認められたのか? 島田氏 ユニバーサルサービスの議論についてはかなり満足しています。メタル設備の代替措置を取るとしてもユーザー周知や切り替えの作業もありますので計画的にやっていく必要があります。2035年を維持限界としても10年間の余地があり、この段階でそういう方向性が出たのは大きな展開。NTT法ができて40年、初めてユニバーサルサービスが変わるエポックメイキングなタイミングになったと思います。 公正競争についても、NTT東西の業務範囲規制については相当程度自由になる。一方で線路設置施設基盤の規制強化については、移転やメタル設備の撤去、老朽化した電柱の撤去や新しい通信方式に対応するための基盤の代替など、効率的にしなければいけません。我々事業者としても、行政としても負担にならないルールになるよう議論できればと思います。 経済安全保障については、世界的には個別で規制するという潮流になっています。 JTOWERの問題もありましたが、NTTとしてはJTOWERはサービス上も価格上も制約がなくても問題ないと思っています。仮に外資系企業が大手通信事業者の基盤を買収する、という話になってくれば個別の規制を強化していく必要があるのではないかと思っています。 ――携帯電話3社はNTT法の維持に加えて強化も主張しているが、どう考えているか? 島田氏 強化する必要性はないと思っています。さまざまな課題を解決して、日本の通信産業としてどうあるべきかという議論をしっかりやっていくことで結論が出てくると思います。それに従ってNTT法の整理を行えばいいのではないでしょうか。 最初から全部やめれば(NTT法廃止すれば)いいという無茶苦茶なことは言いません。解決できた事柄から電気通信事業法に移す、不要なものは不要、ほかの法律体系で規律すべきものはそうすればいいのではと考えています。0か100かという議論をしたいと思っているわけではありません。 ――モバイル網を活用した固定電話のユニバーサルサービス化に向けて今後何が必要か? 島田氏 どこの事業者がどこでカバーするかを明確にしなくてはいけません。カバレッジは広がるので進化していきます。ユーザーの選択肢が増えることが望ましいとは思いますが、事実関係を把握して正しくお伝えする必要があります。制度化とあわせてユーザー周知のあり方を整備する必要があると思います。 ――ユニバーサルサービスを複数事業者で担保する方針について、ほか3社からは明確な反応がなかったが。 島田氏 彼らもあまり意識する必要がないので言ってないのではないか。「サービスをしていないところでエリア展開してください」ということではなく、すでにサービスをしているところでそれをユニバーサルサービスに規定するということです。エリアを拡大するプレッシャーがあるわけではありません。カバーできない場所については、NTT東西がしっかり受け止めて提供するということなので、あまり反応がないのではと思います。 ――今回の報告書案の内容でNTT法は廃止できると考えているか? 島田氏 全然できないと思います。廃止ありきの議論ではなく、課題を全部解決した暁には廃止できるでしょうということです。残った課題はまだまだあります。今の段階ではNTT法は廃止できないでしょう。 ■ KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルもコメント ――報告書案やNTT法の存廃についての考えは? NTT島田社長の発言の受け止めを聞きたい。 髙橋氏 非常に良い方向で意見がまとまってきた。たとえば、公正競争でNTT東西の線路敷設基盤の譲渡などが認可制になること、支配的な事業者であるNTT東西とドコモ、グループ内の合併に審査制度を設けるなどは我々も望んできたことで、非常に良いかたちでまとめていただいた。 NTTさんのプレゼンもエキセントリックな内容はなかった。NTT法廃止についてもこだわりのないプレゼンだったと思います。ある意味、常識的な方向性でまとまってきたと思います。ここから法律を強化するか緩和するかの議論になるかと思いますが、しっかり見届けたいです。 宮川氏 外部の弁護士にNTT法廃止について聞きました。そもそも電気通信事業法にNTTを組み込むこと自体がおかしいだろうという見解をいただいた。通信って(法制定当時から)相当変わってますから。それを見直す機会としては面白い時期だったかもしれないと思います。 我々は光ファイバーこそユニバーサルサービスにすべきと主張していましたが、それも取り入れていただきました。国民生活、デジタル田園都市国家構想、地方創生という観点からも光ファイバーが全国津々浦々に敷設されることをもう1度、見直そうということになったので非常に良かったのではないかと思います。 一部では無線ブロードバンドの活用もやむなしということですが、通信事業者から言えば無線と光ファイバーは質が違う。全世帯に光ファイバーが入ることを希望していますので訴え続けていきたい。今回、NTT法の議論が9回目になりました。いろいろな意見のぶつかり合いから始まりましたが、日本の通信のための(議論が)落ち着いてきたかと思います。 三木谷氏 いい方向性になると思いますが「神は細部に宿る」ということで、これからの詳細な議論は特に重要と思います。モバイルを中心とした通信機能は、リアルなインフラとともに国民にとって大切。その基盤の光ファイバーを中心としたNTTの特別な資産を担保することが重要です。 圧倒的な力を持つNTTグループですから、公正な競争を担保するということで何の事業をやっていいのか、どんなサービスをバンドルしていいのか、ということがまだ少し議論が足りないという意見が構成員からもありましたが、そのあたりも注視していきたいと思っています。 ――モバイル網の固定電話をユニバーサルサービスとすることが妥当だという文言が報告書にあると思うが……。 宮川氏 それはNTTさんの勝手な解釈で……。よく文面見ていただくとわかると思うが、音声の提供については「ラストワンマイルでモバイル通信もやむなし」ということですが、ブロードバンドはそうではない。山間部などなかなか手が入らなかったところで、光ファイバーが国民に共有されるのは本当に良いこと。ぜひそれをNTTさんに責務を課してやってほしい。 髙橋氏 (ユニバーサルサービスとして)電話に固定ブロードバンドが追加で入ったということが非常にプラスになったと思います。 ――NTT法廃止は止められたとして、ここからは何に注視していくべきと考えているか? 髙橋氏 ユニバーサルサービスや安全保障、公正競争など、NTT法廃止(の議論)をきっかけに細部まで議論されたのでこれを一つひとつチェックしていくことが重要と思います。NTTの特別な資産が安易に取り扱われると、これまで頑張ってきた公正競争が根本的に狂ってしまう。そのあたりは特に注意していかなきゃいけないと思います。 三木谷氏 AIやIOWNなどNTTさんが技術に投資されるのはいいこと。本来、事業に支障のない範囲内ということがある。一番最悪のシナリオは、そういうもの(技術投資)がうまく行かなくてファイバーの値段に跳ね返ってしまうだとか、そういったことは考えられるのかと思います。 さまざまなかたちで不動産含めた強力な販売網を持っていらっしゃる。何をバンドルしてよくて何がダメなのか。事後報告でいいということは基本的には自由というふうにも読めなくもない。そのあたりを本当にどうなのかということは議論が必要かと思います。 宮川氏 2020年にNTTドコモが突然、子会社化されました。NTT分離時の政府方針というのがあって、そこで「分離会社への出資比率の低下」ということが約束されているにもかかわらずです。では、なぜできたかというと法的強制力がなかったからです。今回はこれを法的にちゃんと縛りましょうというルールに変わりました。見えていなかった部分までよく見えるようになったので、結果としてはいい議論だったのかなと思います。 これがこのまま(結論として)行くのかどうか分かりません。自民党さんが言い出した話なので、どういう結論を出すのか注目してみていきたいと思っています。
ケータイ Watch,北川 研斗