「尹政策」の全面否定に向かう韓国:節目の日韓関係は後退の恐れ
歴史認識問題は文政権末期まで戻る
さて、次に大統領代行が率いる時期を超えて、その後を展望してみよう。前提となるのは、現在の状況では、弾劾が憲法裁判所で認められる可能性が極めて高いこと、その後に行われる大統領選挙で与党が勝利するのは難しいことである。次期大統領の最有力候補は最大野党「共に民主党」代表の李在明(イ・ジェミョン)であるが、公職選挙法違反をはじめとする数々の疑惑を抱え、「アンチ」も多い彼が、果たして最後まで大統領選挙を完走できるかは未知数である。 朴槿惠弾劾後に行われた大統領選挙では、与党候補の支持率は20%台前半まで落ち込んだ。同じ展開になるとすれば、残る70%以上の票を、複数の非与党系の候補者が奪い合う展開も十分に予想できる。従って現段階では、具体的な個人が次期大統領になることを前提にしてその展開を予測するのは、あまり意味がない。重要なのは、むしろ、与えられた状況から次期大統領がどういう手を打てるのかを考えることだろう。 この点について、考慮すべきなのは、尹錫悦が内乱罪嫌疑で弾劾された状況では、彼が実行してきた政策の多くが否定的に評価されざるを得ないことだ。とりわけ彼の政権下で行われた、元徴用工問題をはじめとする歴史認識問題に関する日本への譲歩は、韓国世論において否定的に評価されており、仮に与党が政権維持に成功したとしても、これを維持する事は困難だと考えておいた方が良い。だとすれば、日韓両国間の歴史認識問題を巡る状況は、文在寅(ムン・ジェイン)政権末期まで戻ると見ておくべきだろう。 それでは、安全保障等を巡る状況も同様に文在寅政権期まで戻るのだろうか。この点について考慮すべきは、歴史認識問題とは異なり、韓国の安全保障等を巡る環境がこの数年の間に大きく変わっていることである。重要なのは、ロシア・ウクライナ戦争の勃発後、多くの国がロシアを批判する中、中国と北朝鮮がロシアへの明確な支持を表明し、さらに北朝鮮が軍隊を派兵したことである。この様な状況において韓国が、かつての文在寅政権のように北朝鮮との早期対話を試みたり、朴槿惠政権のように経済的利益を求めて中国へ接近したりすることは容易ではない。 韓国の来るべき政権の選択肢を狭めている要件は他にもある。アメリカのトランプ次期大統領は、中国に対する高関税政策の実施を明言しており、この中で韓国企業が中国への新規投資を行うのはリスクが大きくなっている。中国経済は低迷基調に入っており、韓国の中国への経済的依存度はこの10年間ほとんど伸びていない。朴槿惠政権が成立した2013年とは異なり、韓国国内の中国への感情は大きく悪化しており、かつての期待は失望へと転じている。