ショートドラマ人気の「必然性」 背景にある「新しい消費スタイル」とは?
「消化」が目的となった娯楽
なにより、われわれの消費している娯楽のほとんどはフリーミアムで消費できるモノばかりだ。タダなら見てみよう、タダだからプレイしてみようと、スーパーの試食のように深く考えずに瞬発力をもって消費が行われている。お金をかけずに消費できるからこそ、消費しようと思うモノで溢れていくため、一つ一つのコンテンツが鑑賞ではなく消化目的になっている。 また、現在の自身のメディアとの接触ポイントを思い浮かべてみてほしい。朝起きて、朝食を食べながらスマホを見て、通勤中の電車内でスマホを開き、昼休みや就業中にスマホを開き、退社してから夕食までの時間にスマホを開き、夕食後から寝るまでの間もスマホを開き続けることができる。 現代は、やろうと思えば1日中スマホから情報を得続けられる。場所の制約すらなくなったため、トイレでもお風呂でも情報を得られる。常に情報の波がそこに存在するわけだ。少しのスキマ時間も動画視聴やSNSで埋められるため、そのスキマ内で完結できる動画を好むようになる。 すると、コンテンツを手短に消費しようとし、ますます短い動画の需要が高まる。「インスタントに娯楽への欲求を満たすコンテンツの消費文化」がそこにはあると筆者は考える。
短尺動画が満たしている「ニーズ」
このように、消費するモノが多すぎて何を消費していいかわからない、長尺コンテンツをみて失敗したくない(時間を無駄にしたくない)、でもインスタントに娯楽への欲求を満たしたい、という現代消費者のニーズを満たしているのが短尺動画なのである。 YouTubeでも「10分見ているのがキツい」と考える者も増えており、それに伴って2020年ごろには長尺動画に入れられるミッドロール広告の仕様が10分以上の動画から8分以上の動画へと短くなった。 これは6秒前後の動画投稿ができるVine(2016年サービス終了)や15秒の動画を投稿できるTikTok(最近では長尺動画も投稿できるようになった)をはじめとしたショート形式の動画共有サービスがSNSの主流になったからだ。TikTokが若者のSNSの中心になったことで、YouTubeもTikTokを意識したショート動画が投稿されるようになった。YouTuberがTikTokの動画を使ってYouTubeへ誘導しようとしたり、TikTokの動画がYouTubeやInstagram、LINE、Facebookなど他のプラットフォームに流用したりされるなど、とにかくTikTokの影響を強く受けている。 その結果、短い尺のなかで起承転結がつく、技巧を凝らさないインスタントな娯楽でも満足できるという消費文化も合わせて定着してしまったといえる。クオリティの高い長い動画を1本見ることよりも、短い動画を何本も見たという事実(消費したという事実)の方が、満足度が高いと考える消費者が増えたともいえるのかもしれない。 最近では、ショートドラマアプリに限らず、TikTokやYouTubeにはストーリー性のあるコンテンツが溢れている。その中でも「ごっこ倶楽部」や「こねこフィルム」などショートドラマに特化した集団も存在する。 企業のPRなどにもショートドラマは取り入れられ始めている。例えば前述した、ごっこ倶楽部と電通グループのセプテーニによる取り組みでは、九州北部を中心に複数箇所の結婚式場を経営するアルカディアグループの結婚にまつわるショートドラマを作成し、動画投稿後3週間で総再生回数が500万回を超えるなど注目を集めた。 企業PRであったとしても、分かりやすい「起承転結」ドラマであるがゆえに、広告を娯楽コンテンツとして享受してもらいやすい。また、SNSの仕様によっては動画の長さや動画の残り時間もカウントダウンされていく。後どれぐらい見続ければ満足という予測が立てやすいことが、視聴維持(スキップさせない)につながっていると筆者は考える。 また、2021年ごろにはTVerに「シーンシェア」という機能が搭載された。ユーザーがSNSなどでシェアしたいと感じた場面で一時停止してシェアボタンを押すとURLが生成され、そのURLをクリックした他のユーザーはTVerでその部分をすぐに見ることができた。番組全体を視聴する必要も、わざわざ番組を探す必要もなく、他のユーザーがおもしろいと感じたハイライトの部分だけをおいしく消費できるようになった。 このように、長時間の動画や、動画全体ではなく、その動画の一番おいしい部分だけ消化するような視聴方法により、起承転結の「転」や「結」だけで満足できてしまう者も増えている。だからこそ、SNS上で話題の番組のあらすじを見たり、ネタバレ動画で動画の流れを知った後にハイライトの部分を見たりして、動画を消化した気になれてしまうのである。