「4年生のために……」戦い抜いた3年生キャプテン・前田凌吾 早稲田を全勝優勝に導いた、ミドルブロッカーと磨き上げた1本
全勝優勝の締めくくりは、狙い通り、会心の1本だった。 自分に上がる。確信を持って入った早稲田大学のミドルブロッカー麻野堅斗(2年、東山)のもとへ、セッターの前田凌吾(3年、清風)は「決まる、決めてくれ」と迷わず上げた。前田の後ろから、左利きの麻野が放った速攻が決まり25-23。春の王者、中大に3-0で勝利した。 【写真】全勝優勝を果たし、前主将の浅野翼と「紺碧の空」を歌う前田凌吾
前田と麻野が磨き上げた1本
優勝が決まった瞬間、前田が麻野に飛びつき、勝利の喜びを分かち合う。タイミング、高さ、まさにドンピシャの1本は、春季リーグや6月の東日本インカレを終えて以後、長く厳しい夏の期間に2人が磨き上げてきた賜物(たまもの)と呼ぶべき1本だった。 前田が言う。 「秋リーグが始まってからもあんまり合わなくて、僕も堅斗も頑張って合わせようとしすぎて、また余計に合わない。このままじゃダメだ、と思ったのでとにかく練習もしてきたし、話し合いもした。お互い思うことを全部ぶつけ合ってきました」
攻撃時の些細なズレ
身長207cmの高さを誇る麻野をどれだけ生かせるか。勝負どころでエースの畑虎太郎(3年、福井工大福井)や佐藤遥斗(2年、駿台学園)への警戒を少しでも薄め、決めやすい状況をつくるために、セッター心理としては前半からできる限りミドルの攻撃を使いたい。 特に麻野の高さは大学リーグでは圧倒的で、将来も嘱望される選手だ。事実、昨年の全日本インカレを終え、今年2月から1カ月間、練習生としてイタリアリーグのミラノに渡った。1人の選手として見れば、イタリアで多くの学びや刺激を得て来た一方で、大学に戻ればチーム内で果たすべき役割もある。頭では理解していたが、攻撃時に生じる些細(ささい)なズレを麻野自身も感じていた。 「日本に比べて、ミラノでは身長や(ボールが)出てくるところが高いセッターと合わせていたので、自分のタイミングもズレていたんです。特に春からは(大学で)速さも重視してきたので、自分はもっと高いトスが打ちたいけど速さも求められる。そこでまたなかなかうまくいかなくて、どうしよう、という期間が長くありました」 合わないまま進めても解決策は生まれない。麻野は「高さ」を要求したが、高さと速さを兼ね備えたトスは簡単にマスターできるものではない。ましてや攻撃陣は麻野だけでなく、他のスパイカーと連動してなければ、チームの武器にはならない。