アマゾンの怪魚ピラルクーはセビーチェが絶品。ブラジル流ブイヤベースも美味いぞ!
植民地時代に伝わったブラジル流ブイヤベース「カウデラーダ」
わたしが好きなピラルクー料理は、「カウデラーダ」である。カウデラーダは、一種のブイヤベースだ。ブラジル料理は、もとの宗主国であるポルトガルの料理を基本としている。カウデラーダもポルトガル料理で、大型魚の切り身をトマトとともに、ジャガイモ、タマネギ、ピーマンなどを加えて土鍋で煮込んだものだ。 もとはマダラやヒラメなどポルトガルで手に入る海の魚を使っていたものだろうが、マナウスではアマゾン川の淡水魚を使うようになった。 魚の旨味、トマトのフレッシュな酸味、塩胡椒のシンプルな味つけで、ゆで卵がアクセントになっている。薬味にはコリアンダーや小ネギが散らされる。カウデラーダにはさまざまな魚が使われるが、まったく煮崩れしないピラルクーのシコシコした食感と旨味がたまらない。
ピラルクーの生食料理「セビーチェ」
一度だけ、新鮮なピラルクーの「セビーチェ」を食べたことがある。 セビーチェは、ペルー発祥といわれる魚の生食料理のひとつである。たっぷりのレモン汁にニンニクとコリアンダー、トウガラシを入れて、塩と胡椒で味を整えたものに、薄く切った生魚を漬ける。漬けすぎて身が白く濁らないようにして、生っぽい感じを保つことが肝要だ。 マナウス市内のレストランでも滅多に食べることはできないが、この店のセビーチェはピラルクーの身を丁寧に削いで、上にケッパーを散らしたおしゃれな一品だった。味はカワハギの薄造りといったところか。
怪魚の養殖を成功させたのは日系人だった
ピラルクーは、体長4.5m、重さ200kgにも達する世界有数の大型淡水魚である。性成熟は体長1.7m、重さ40kg以上で、生後4~5年程度必要とされる。強力な捕食者であるが、食用のために乱獲されて野外では著しく減少しており、現在は養殖が盛んである。 マナウスなどのアマゾナス州だけではなく、サンパウロ近郊でも養殖されているという。ピラルクー養殖業の成功には、日系ブラジル人の貢献が大きいと聞いた。 湯本貴和さん 1959年徳島県生まれ。京都大学名誉教授。理学博士。植物生態学を基礎に植物と動物の関係性を綿密に調査。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林を中心に探検調査は数知れず。総合地球環境学研究所教授、京都大学霊長類研究所教授・所長を務める。京大退官後は「フリーのナチュラリスト」を標榜。旅を続け、調査を続け、食への飽くなき追求を続けている。著書に『熱帯雨林』(岩波新書)、編著に『食卓から地球環境がみえる~食と農の持続可能性』(昭和堂)などがある。日本初の“食と環境”を考える教育機関「日本フードスタディーズカレッジ 」の学長も務める。
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