袴田事件当時の捜査に対するこれだけの疑問 小川秀世[袴田事件主任弁護人]
実況見分調書の雨ガッパの写真
《次は、現場の実況見分調書に出てくる、雨ガッパの写真です。雨ガッパのポケットにクリ小刀のさやがあったという写真なんですけれども、これも今回の裁判で私たちは何と主張したかというと、そもそも雨ガッパを着て強盗に入る者はいないでしょうと。 年輩の方はご存じだと思いますが、雨ガッパは重たくてガサガサと音がする。そんなものを着て、深夜強盗に入るバカはいないでしょう。ところが今回の判決では、「いや『雨ガッパは強盗に使われない』ということも直ちには言えない」という結論でした。 犯人が使った雨ガッパであり、ポケットにはクリ小刀のさやがあるから、だからクリ小刀が凶器だと言われているんですが、事件直後の新聞記事を見ると、「現場から見つかったカッパから1メートル足らずの位置に短刀のさやが見つかったため、クローズアップされ重要な資料となっている」と、そういう報道が出ているのです。 最初の報道では、雨ガッパのポケットではなく、1メートル離れたところにさやが落ちていたという、そういう記事になっているのです。しかも「短刀のさやについて、『同雨ガッパのポケットから抜け出たと見るのが妥当だ』と捜査本部も言っている」と書かれています。 しかし実況見分調書では、クリ小刀のさやが「雨ガッパのポケットに入っている」ことになっている。今回の再審公判でこの新聞記事を証拠に出そうとしたところ、新聞記事は信用できないと言って、検察官が同意しませんでした。だから証拠になっていないんです。》
パジャマの血液をめぐる恣意的な捜査
《さらにパジャマの問題ですけれども、袴田さんのパジャマは、事件直後、捜索されたときに任意提出で押収されました。パジャマには全く血痕などついていません。そのことは鑑定書に「目に見える血、血液はついていない」と書いてあるんです。 しかしそのパジャマを押収した直後に、「血染めのシャツを発見」という記事が出たことは、皆さんお聞きになったことがあると思います。問題は、この袴田さんのパジャマの右腕の上部、後ろ側にかぎ裂きの損傷があったことです。 最初はこのパジャマが「犯行着衣」でしたので、専務と格闘しているときに、パジャマの右肩に怪我をして傷ができたと自白調書では言っていました。しかし、最終的に5点の衣類が犯行着衣だとなってしまったものですから、このパジャマは結局、犯行着衣からは消えて、「格闘した時の犯行着衣」ではなく、「放火した時の犯行着衣」ということにはなったのです。 何が言いたいかというと、パジャマにあったかぎ裂きの損傷は、強盗で格闘しているときにできたものだという話をしましたが、もしそうであったなら、その画像は残すでしょう。ところが、パジャマの写真は何枚もあるのに、かぎ裂きの部分を写した写真は1枚もないんです。 これはどういうことですか。おかしいでしょう。かぎ裂きの損傷があった部分が、撮影されていないのはどういうことか。私はようやく分かったのですけれども、「血染めのシャツ発見」と言いますが、鑑定書は、このパジャマの前面から血液が検出されたとなっているんです。でも、目に見える血液はついていない。袴田さんは事件当時、消火活動をしていたときに屋根から落ちて、右腕上部に怪我をしたのですけれども、ですから実はそこに血は残っていたのです。血が残っていたということは取調べの検事とのやり取りの録音テープにも出てきます。 血痕が残っていたら、かぎ裂きの損傷の写真を撮ればわかるではないですか。ところが右腕の血痕だけが残っていて、前面には血痕がまったくない。返り血としては絶対におかしいでしょう。最終的に裁判所や捜査機関は、洗濯したから目に見えなくなったんだと言っています。 だけど洗濯をして、前はきれいになったけども、かぎ裂きの部分だけには血が残っているというのもおかしい。だから、もうかぎ裂きの部分は一切写真を出さなかったということなのです。そうやって恣意的に写真を撮って、何を提出したり、しなかったり、警察は全く自分たちの思いどおりにできるのです。そういうところが非常に問題だというのが私の考えです。 結局、捜査機関による捏造だとか、そういう証拠隠しから何が起こるかというと、証人尋問でもたくさん警察官が出ているんです。そうすると、絶対嘘をつく。証拠隠しや捏造をしていると、もうどんどん嘘をついて、嘘まみれの裁判資料になる。これは本当に許されないことです。 さらに裁判官も捏造などがあっても、つじつま合わせのようなことをやっている。例えば、袴田さんが犯行時に履いていたとされたズボンよりも、その下のステテコのほうに返り血のようなものがたくさんついている。これもどう考えてもおかしいではないかと裁判で争われたら、裁判所は「犯行途中でズボンを脱いだ可能性もある」という訳の分からないことで説明しようとしたんです。》