袴田事件当時の捜査に対するこれだけの疑問 小川秀世[袴田事件主任弁護人]
●はじめに
10月21日、静岡県警の津田隆好本部長が袴田巖さんとひで子さんのもとを訪ね、正式に謝罪した。謝罪は当然だが、それによってみそぎがすんだことには全くならない。明らかになった証拠捏造(ねつぞう)がどのようにしてなされたのかについてはきちっとした検証が必要だ。 警察は、予断をもって袴田巖さんを逮捕し、そのままでは証拠不十分で立件さえも難しいという局面で、証拠を捏造するという暴挙に及んだ。そのような無理な捜査がなぜなされたのか。当時の捜査についての検証は次の大きな課題だ。実は事件現場の写真などからも捜査方針への疑問がこれまでも指摘されていた。 さる10月13日、都内で「響かせあおう死刑廃止の声2024」という「FORUM90」主催の集会が開かれ、そこで袴田事件弁護団事務局長の小川秀世主任弁護人の講演が行われた。小川さんは、無罪判決の内容や証拠捏造について話したのだが、それに続いて現場写真を示しながら捜査への疑問も説明した。再審公判の中でも語られた内容ではあるが、この説明によると、事件当初の現場検証の写真などからも、捜査の誤りが指摘できるという。 ここでその集会での小川弁護士の話から当時の捜査に関する部分を紹介しよう。実際の講演では遺体の写真が何枚も示されたのだが、あまりにも生々しいので掲載はごく一部にとどめた。講演全体は、10月30日発行の「FORUM90」ニュース193号に収録されている。(編集部)
弁護人から見た判決の「捏造」認定の意義
《静岡県弁護士会の小川です。今回の無罪判決ですが、皆さんもお聞きになってびっくりしたと思いますが、言い渡しの時に、最初から「捏造」という言葉が出てきました。私も率直に言って、びっくりしました。「捏造」という言葉が法廷で平気で出てくるようになったというのも、袴田事件の一つの成果ではないかと思っています。 今回、裁判所は3つの捏造に言及しました。1つは、唯一証拠として採用されていた自白調書、9月9日の検面調書です。2番目が5点の衣類です。3番目が5点の衣類とズボンの裾と一致する共布です。これは袴田さんの実家から警察が発見したと言っている布切れですけれど、それらが捏造であるということをはっきりと言ったわけです。 今まで、例えば2014年の静岡地裁の再審開始決定でも、その後の最高裁でも、東京高裁の差し戻し後の決定でも、「捏造の可能性がある」とは言っていました。しかし今回は、「捏造の可能性」ではなく、「捏造した」と言っているのです。大きく踏み込んでいる、この点が全く違います。 それからもう1つ違うところは、検察官が警察と連携して捏造をしたという点、そこもはっきり言っている。そこが本当に驚かされたところです。 検面調書を捏造とした点にも、少し驚かされました。ものを捏造するというのはわかりますけれども、検面調書、供述調書を捏造したと言ったわけです。これは要するに、検察官が勝手に書いたものに署名させたということではなくて、自白を強要するひどい取り調べがあったわけですけれども、その結果、袴田さんがその状況から逃れたいがために、警察からヒントをもらいながら、苦し紛れで話をしたことを書いたものが、あの自白調書になっているわけですけれども、そのことを実質的に捏造であるという表現で、今回の裁判所は言っているわけです。 その3つの捏造が今回、認められたということです。》 この後、講演で小川弁護士は、捏造の具体的中身、5点の衣類の問題などに踏み込んでいくのだが、その部分はこれまでも報道されてきたので割愛し、捜査の問題点を語った部分を紹介する。