ユニクロ猛攻、H&Mに迫る パリ・ローマの超一等地に旗艦店
大台突破も通過点。そう言わんばかりの決算会見だった。 2024年8月期、連結売上収益(売上高)が初めて3兆円を突破したファーストリテイリング。ユニクロ1号店の開業から40年。感慨にふけるのかと思いきや、柳井正会長兼社長は、こう言い放った。 【関連画像】アールヌーボー様式の商業施設に入るローマ1号店(写真=ファーストリテイリング提供) 「現時点では真のグローバルブランドを目指す競争にやっと出場資格を得たにすぎない」 そして次なる目標をぶち上げた。売上高10兆円。現状の3倍超と途方もない数字だが、柳井氏は不可能とは毛頭考えていない。ファッションの本場・欧州で、ユニクロが急成長を遂げているからだ。 ●45%増収、桁違いの稼ぐ力 「ここまで既存店の売り上げが伸びるというのは、僕のユニクロの歴史の中ではなかった。あり得ないという予算をつけたのに、それを超えてきましたから」。ユニクロ欧州最高経営責任者(CEO)で、ファストリ・グループ上席執行役員の守川卓氏も驚きを隠せない。 それもそのはず。24年8月期の連結決算で、ユニクロ欧州事業は“異常値”をたたき出した。売上高は前期比45%増の2765億円、営業利益に至っては70%増の465億円と急伸した。グループ内での成長力は抜きんでている。 それが如実に表れているのが、1店舗当たりの稼ぐ力だ。全世界のユニクロを対象とした売上高(23年9月~24年2月期)で、欧州からはフランスの「パリ オペラ店」など4店舗がベスト10に入った。 欧州の店舗数は24年8月末時点で76にすぎないが、売上高は3000億円に迫る。797店舗で9322億円の日本事業と比べて1店舗当たりの稼ぐ力は桁違いに大きい。
唯一無二の建物、立地に出店
全体をけん引しているのが旗艦店だ。「建物そのものと立地が最高、最良であること」(守川氏)を条件に、欧州中から選び抜いた超一等地に思い切って出店し続けた。歴史的建造物の梁(はり)や天井、柱を生かしながら、ユニクロの世界観を盛り込んだ路面店の数々は、見事に欧州の街に溶け込んだ。 例えば、オペラ店はその名の通り、パリのランドマーク、オペラ座の真向かいという超一等地に構える。間口こそ狭いが、一歩足を踏み入れると、歌劇場を思わせる大階段が目に飛び込んでくる。築150年を超す重厚な建物の雰囲気と相まって、思わず写真に収めたくなる“映えスポット”だ。 24年4月にはイタリア・ローマの中心部を貫くコルソ通りにデビューした。アールヌーボー様式の商業施設の一角を占め、店内はらせん状の階段でつながる。広場をイメージした空間を配し、ローマらしい装飾を随所に施した。 欧州では現在11カ国で店舗を運営するが、どれも立地、内外装ともに唯一無二の存在感がある。こうした「映えるユニクロ」がブランド力の底上げに大きく寄与し、欧州での認知度が高まっていった。 今や出店する先々で、大歓迎を受けるほどだ。4月、英エディンバラに出した店舗は午前4時から列ができ、約700人が開店を待った。10月に開いたオランダ・アムステルダムの2号店は、開店前の和太鼓演奏に人だかりができた。今後も出店攻勢を続け、27年8月期には欧州事業の売上高を5000億円まで持っていきたい考えだ。 まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだが、ここに至るまで実に四半世紀近い時間を要した。ユニクロの海外展開は01年、英ロンドン進出に始まる。しかし苦戦続きで、一時は「失敗」と判断して大幅に店舗を減らした。旗艦店という鉱脈をつかむまでは長く険しい道のりだった。