ユニクロ猛攻、H&Mに迫る パリ・ローマの超一等地に旗艦店
ライフウエアの浸透で覚醒
24年で創業40周年を迎えたユニクロ。その節目を記念した特別展が10月、フランス・パリで開かれ、柳井氏も駆けつけた。テーマに据えたのは「ライフウエア(究極の普段着)」だ。 パリのアパルトマンを模したモデルルームに、ユニクロの秋冬コレクションがずらりと並ぶ。ファッションショーのようにモデルがステージ上を行き交うのでなく、暮らしの中に新作を加えた。そこに、ユニクロの美学が宿っていた。 ライフウエアとは何か。柳井氏は、詰めかけた海外メディアを前にこう説いた。「私たちは40年にわたり、服だけでなく服をつくる会社にできることを見直し続けてきました。その私たちの価値観の結晶が、ライフウエアです」 根底にあるのは「個性とは服にあるのでなく、人にある」という考え方だ。「服とは自らの個性を組み立てる部品です。自ら選んだ高品質な部品を使って、自身の魅力を表現する。余計なものをそぎ落とし、シンプルかつ上質、高い機能性、耐久性を持ち、しかも毎年その機能が高まっていく。使い捨ての服でなく、長く着られる究極の普段着。これがライフウエアの哲学です」と柳井氏は力説した。 それは、既存のファッションブランドへのアンチテーゼでもある。一時の流行を追いかけるのではなく、「国籍、年齢、職業、性別を超え、世界中のあらゆる人々が気軽に買えるメード・フォー・オールの服」(柳井氏)をつくり続ける。 一朝一夕では伝わらない、だが深遠なものづくりがファンを掘り起こし、好業績に跳ね返ってきた。その価値観が受け入れられ始めたのだ。
アパレル世界2位が射程圏
欧州は、「ZARA(ザラ)」を展開するアパレル世界首位のインディテックス(スペイン)と、同2位「H&M」のヘネス・アンド・マウリッツ(スウェーデン)のお膝元だ。“部外者”であるユニクロが食い込むのは容易ではなかった。 ライフウエアを旗印に、ようやく欧州攻略の糸口をつかんだファストリ。H&Mとの売り上げの差は2000億円程度に縮まり、「アパレル世界2位」も見えてきたが、守川氏は「まずは信頼され、尊敬される企業になることが大事だ」と強調する。 ユニクロはファストファッションに分類されがちだが、「彼ら(ザラやH&M)とは全然違うリテーラーですよ。トレンドを追いかけるのではなく、生活に必要な服を磨き上げたい」(守川氏)。 柳井氏にとって売上高3兆円と同様に、H&M超えも通過点にすぎない。目指すは世界一。柳井氏の頭の中には、この先のロードマップができている。「数年のうちに売上高5兆円に届く。10兆円を目指し、具体的な計画と準備を進める」。大いなる野望に向けた布石を追っていこう。 欧米の成長で業績安定度増す 河野 祥氏(ゴールドマン・サックス証券投資調査部長) ファーストリテイリングは単純明快ながら唯一無二のビジネスモデルだ。規模拡大で、高品質の定番品を値ごろな価格で提供する点が強みだ。 ファストファッションを手掛ける企業は同質化が進み競争が激化しているが、ファストリはそうした企業よりも成長率が高い。「ZARA(ザラ)」のインディテックスは約1200アイテムを展開し、頻繁に商品を入れ替える。 それに対してユニクロは品番数を400ほどに絞り、販売サイクルは比較的長い。また1品番当たりの生産量が100万枚以上に上り、素材を大量調達したり縫製作業の効率を高めたりしてコストメリットを得ている。 近年は欧米で「ライフウエア(究極の普段着)」のコンセプトが浸透している。一過性のブームである可能性は低いだろう。欧米は市場規模が大きく、シェアを伸ばす余地も大きい。今後どれほどシェアを取れるのかに注目している。 収益を生み出す地域が分散したことで、業績成長の安定度が増している。今後も営業利益を年10%近いペースで増やせるとみている。(談)
酒井 大輔、梅国 典