「低年収だから年金額も低い」老後も続く格差の現実…既に50代に突入した氷河期世代を救う方法はあるのか
■収入アップや社会復帰への公的支援が必要なのに… 親に経済的に依存している未婚の低所得者のかなりの割合が、収入は低くても就業はしている。彼らに有効なのは、より収入の高い仕事へステップアップするための職業訓練や、介護サービスや公営住宅などの現物給付を含む金銭的支援だ。一方、ひきこもり状態の人や長期にわたって孤立無業状態にある人には、まずは社会とのつながりを取り戻すためのきめ細やかな支援が必要であろう。 どちらの支援も必要だが、対象となる層も取るべき対応も別物である。それにもかかわらず、親に経済的に依存している未婚の低所得者の経済的自立の問題を論じる際に、なぜか長期無業者を念頭に置いた社会参加に関する議論に話題がすりかわっていきやすい。数十万人を対象とした金銭的支援となると、どうしても財源の問題が避けられないため先送りされやすい、と考えるのは邪推だろうか。 ■生活保護の手前の段階で救済する制度がない 既存の社会保障の枠組みでは、就業はしているが所得が十分でない者に対する再分配がほとんどない。高齢でもなく障碍(しょうがい)もない場合、生活保護以外の制度がないのだ。 非正規雇用から失業した場合、雇用保険の失業給付金も十分にはもらえないことが多い(酒井2020)。2011年より施行されている求職者支援法は、この点の緩和を目指したものであるが、あくまで職業訓練の受講を容易にするための制度であり生活保障として十分とは言えない。生活保護基準にはぎりぎり入らないような、最貧困層のすぐ上の所得階層にいる現役世代に対するセーフティネットが薄い。 このことは、2000年代に「ワーキングプア」という言葉が流行した時にすでに指摘されていたが、この20年でほとんど改善されていない。
■年金も低く、貯蓄も少なければ老後は困窮してしまう もうひとつ、将来大きな問題となると懸念されるのが、低年金・低貯蓄に起因する老後の困窮だ。現在は経済的に自立できている人の中にも、将来のための貯蓄をする余裕はないというケースも多いだろう。それに加えて、これまで無業や非正規雇用だった期間が長いほど、払い込んできた厚生年金保険料が少なく、その分将来支給される老齢厚生年金の額も少なくなる。要するに、現役時代の収入が低いともらえる年金も少なくなるのだ。 日本の社会保険制度が逆進的であるという指摘は従来からなされてきた(例えば酒井2020)。2016年までは、パートタイム労働者は、週あたりの所定内労働時間が正社員の4分の3(おおむね30時間)以上でなければ被用者保険(会社で入る健康保険)の加入対象ではなかった。 ■国民年金に40年加入しても、月額6万6250円しかもらえない 勤め先の社会保険に入れない場合は、国民健康保険や国民年金に加入する必要があるが、雇用主負担分がないため、国民健康保険のほうが被用者保険よりも、同じ所得の人が払う保険料が高い。 国民年金保険料も所得によらず定額であるため、所得が低いほど負担率が高くなる。しかも、現役時代に国民年金にしか加入していないと、将来もらえる年金額は加入期間のみに依存して決まる老齢基礎年金のみになる。2024年現在の老齢基礎年金支給額は、40年以上加入していた人で月額6万6250円である。基礎年金だけではとても生活できないことがわかるだろう。