バガヨコはナイフで腕を刺され、カヌーテは体中殴打…セイドゥ・ケイタがマリ代表と平和のために成した勇気ある行動
マリ史上最高のプレーヤー最後の国際大会
心の底から発せられたメッセージは説得力があり人々の心に響いた。 クーデターによるアマドゥ・トゥマニ・トゥーレ大統領の失脚と、新国家アザワドの一方的な独立宣言によって紛争は終結した。2005年のワールドカップ予選トーゴ戦後の暴動で、大統領はマリ国民が制御不可能だということに気づき始め、そしてついに追いつめられて権力を手放すことになった。南北の意見を統一しようという試みはその後も何度かなされたが無駄に終わる。この国の亀裂は広がる一方で、譲り合うなどありえなかったからだ。 マリ代表は、準決勝でコートジボワールと対戦して敗退。ケイタはそれから数年の間、代表チームの一員として国際試合への参加を続けた。2015年、赤道ギニアで行われた大会は、当時ローマでプレーしていたケイタにとって最後の大きな国際大会となる。祖国への最後の奉仕だ。「クラブでタイトルを獲得することも素晴らしいが、代表としての大いなる勝利に優るものは何もない」とこの主将は常々言っていた。同大会中に100キャップ・25ゴールを達成し、マリ史上最高のプレーヤーとなった。 グループリーグでは、カメルーンとコートジボワール相手に両試合とも1-1の引き分けをともに演じたマリとギニアが激突した。ギニアが元ACミランのコンスタンのゴールで先制。PKをパネンカで決めた。その数分後、マリは相手のハンドにより、同じくPKで同点とするチャンスを得た。しかし、主将ケイタが放ったボールは弱々しくゴールキーパーのヤッタラの手に収まった。後半になって、モディボ・マイガがヘディングで同点にすると、マリのサポーターは歓喜し、今度は「セイドゥ、セイドゥ!」と、今大会が最後の国際大会となるケイタに向けて、鼓舞し続けた。そこには、先ほどのPKの失敗など気にするなという思いも含まれていた。しかし、試合はそのまま1-1で決着。 順位表では、2位争いをするマリとギニアがすべてのポイントで並んでいた。どこをどうとっても両者に差をつけられない。どちらのチームがコートジボワールとともに決勝トーナメントに進むべきか、決める方法がない。 もっとも正当な非常手段はPK戦を行うことだっただろう。グループリーグの決着としては不条理かもしれないが、アフリカでは緊急事態で臨機応変に対処することには慣れている。PK戦も自然な解決法だとして誰もが受け入れたに違いない。しかしCAFは両チームが残した成績を基にした解決策を模索することなく、すべてを偶然の手に委ねることにした。