バガヨコはナイフで腕を刺され、カヌーテは体中殴打…セイドゥ・ケイタがマリ代表と平和のために成した勇気ある行動
バガヨコはナイフで腕を刺されて負傷し、カヌーテは…
バマコでの試合は、マリにとっては最高の形で始まった。カリファ・クリバリのゴールで先制すると、マリのリードに狂喜したサポーターは、ワールドカップ出場権をすでに手にしたかのような空想にふけり始めた。しかし、その後はトーゴのすさまじい攻勢に手を焼いた。ミッドフィルダーのサリフとママムが試合をひっくり返し、電光掲示板のスコアを1-2とした。90分を過ぎての2ゴールは決定的であり、マリはワールドカップ出場の夢と決別した。 この敗北に気分を害したマリのサポーターはピッチに乱入。スタンドから引き抜かれたイスが頭上を飛び交い、マリのサポーターは棒と石で暴れ回り、トーゴの選手は、いまだどのように逃れたのか不明だが、無事にロッカールームにたどり着くことができた。 真にカオスだった。全員の安全を確保しなければならない警察は断固たる措置を取り、混乱を収拾するために催涙弾を発射した。しかし、そのようなことをしても、不満を暴力で表明することしか頭にない群集には焼け石に水だった。 第一の標的は審判だった。この試合の審判に宿敵のガーナ人を指名するなどとんでもないと多くの人は考えていた。審判に対する怒りが鎮まると、次の標的はフランス生まれの2人のフォワードだった。「バガヨコとカヌーテを連れてこい!」と、猛り狂ったサポーターたちはわめき出す始末。 この嘆かわしい諍(いさか)いの結果、バガヨコはナイフで腕を刺されて負傷し、カヌーテは体じゅうを殴打された。2人のスターが安全な場所に保護されると、暴徒と化したサポーターの群れは通りに出て抗議を続け、街中の商店に放火し自動車を燃やした。敗北を受け入れることなどできず、破壊活動でフラストレーションを発散した。オリンピック委員会の本部まで放火され、マリのスポーツの歴史が綴られた多くのファイルが焼失してしまった。 この市民の抗議運動を政府は、ならず者らがサッカーの敗退を利用して組織したものだということに落ち着かせようとした。しかし、そうした公式見解とは異なり、マリ国民は国家への帰属意識が薄れてきているのだという意見が強まっていった。マリで何か重大なことがふつふつと煮えたぎり始めていた。結末の見えない危機が迫っている。