森にシカが増えると、二酸化炭素をためられなくなる? 機能が半減も
森林にシカが増えて食害が進むと、二酸化炭素を吸収して蓄える機能が大きく減ってしまう。そんな研究結果を九州大のグループがまとめた。宮崎県の森林で、植物や土壌に蓄積されている炭素の量を見積もったところ、食害の影響が大きい場所は元の姿の場所に比べ、ほぼ半減していた。 【写真】シカの食害で下草がなくなった森林(左)と、防護ネットで守られた森林(右)。違いが一目瞭然だ=宮崎県椎葉村、九州大の阿部隼人さん提供 シカが食べない樹木が増え、太い幹が育ちにくくなるなど、森林の構造が変化したためとみられる。研究者は「気候変動対策としても、シカの管理が重要」と指摘している。 調査地は、宮崎県椎葉村の山地にある九州大宮崎演習林。ブナやモミなど広葉樹と針葉樹が混在する森林が分布するが、1980年代からニホンジカが増え、植生が変化してきた。 シカが増えると、下草のササ(スズタケ)が失われ、新たなブナやモミが芽吹いても若いうちに食べられてしまう。シカが食べないツツジ科のアセビが茂った場所や、裸地化した場所も目立つようになった。 大学院博士課程3年の阿部隼人さんや片山歩美准教授らの研究グループは、森林のタイプを(1)元の姿で残っている場所、(2)下草が失われた場所、(3)アセビなどの低木が中心になった場所、(4)裸地になった場所に区分し、それぞれの炭素蓄積量を比較した。 シカの食害が進むと、(1)→(2)→(3)や(4)の順で変化していく。それぞれ4地点ずつ、計16地点で樹木の種類と幹の太さ、生えている密度を調査。採取した下草や落ち葉、根、土壌などを分析して、炭素の量を求めた。 同じ面積あたりの炭素の総量を比べると、(1)に対して、(3)は44%、(4)は49%少なくなっていた。下草の有無だけでは大きな違いはみられなかった。
朝日新聞社